澄田喜広
2025年末の12月によみた屋吉祥寺店を改装しました。1997年に開店してから3度目の大きな改装です。
最初は壁面以外に両面の棚が4列で全10面の棚がずらりと並ぶ、「とにかく本がたくさんある」本屋でした。棚と棚の間の通路は90センチでしたが、柱が出っ張っているところは60センチぐらいのちょっと狭苦しいお店です。
2002年ごろ、両面の棚を3列にして、少しゆったりとした配置にしました。西荻窪と阿佐谷にあった店を統合して吉祥寺店だけにしたこともあって、このころが店舗での売上の最盛期でした。棚の後ろに空間を作って、未整理の本を置く小さな倉庫スペースにしました。
2度目の大改装は可動棚を使いました。木製で、視線ぐらいの高さにしました。最初は見通しがきいて気持ちよかったのですが、いつの間にか棚の上に本が増殖して、可動棚の車輪も重みに耐えかねているかのようでした。
今回の改装で当初に近い4列配置に戻しましたが、柱の前は避けて狭いところを作らないようにしました。以前の倉庫用の棚とは違い、廃業した書店から譲ってもらった書店専用の高性能棚なので収納力が高く、これまでで最高の蔵書量になりそうです。
そのときそのときの社会情勢や流行と自分の気分の折り合いがつくところを求めて、店の雰囲気を変えてきました。店長を務める妻との話し合いも重要です。ときには遠慮し、ときにはぶつかり合いながら、二人の考えを一致させます。うまくいっていない部分があると、そこがお互いのイライラの発火点になります。
ずっと変わらないのは、店の奥の突き当たりの壁。思想・哲学の棚が30年以上にわたって変わらずにあります。そこから放射するように言語、心理、宗教、歴史、社会、科学、美術の本が、少しずつ配置を変えながらあって、手前に音楽、芸能、まんが、文学、文庫、新書、児童書、実用書などがあります。考えてみると、改装しても基本的な配置はあまり変わっていません。
改装したばかりの棚をごらんになったお客が「高原書店を思い出す」とおっしゃいました。高原書店は、私がかつて勤めて修業した店です。その高原書店が閉店したのは6年前ですが、懐かしんで惜しんでくださるお客がまだたくさんいらっしゃいます。よみた屋とは什器も違いますし、置いている本ももちろん違うのですが、どこか受け継いでいるところがあるのでしょう。私自身も、自分の店では思いませんが、かつての同僚や、それどころか私の店から独立した人の店づくりでさえ、ふと高原書店の香りを感じることがあります。
先日、高原書店の社長の高原坦が亡くなったあとに経営を受け継いだ陽子夫人に、同僚二人と一緒にインタビューする機会がありました。話を聞くつもりでしたが、つい当時の思い出がよみがえり、座談会のようになりました。
私がいたのは1980年代ですが、そのころすでに高原書店は新古書店・インターネット古書店・個性派古書店の先駆けになる仕事をしていました。経営はずっと苦しかったと思いますが、社会への貢献という意味では立派な古書店でありつづけました。私のように「なるようになる」経営ではなく、高原社長は理念に基づいて理想を追求し、それを成り立たせる方法を考え続ける人でした。
戦後の古書業界の重鎮である反町茂雄の「古本屋は、金を借りるな、人を使うな、安い本を扱うな」という教訓がありますが、高原書店はすべてその逆の経営をしました。「大量生産される本は、商品の量が多く、企業として発展性があるが、古典籍や稀覯本は全体の量が少なく、企業として発展する可能性は少ない」と高原坦の著書『古本屋30年――古本屋人生中間報告 増補改訂版』(自家版、2009年)にあります。
高原書店の大量に出版された本を安く(定価の半額程度で)売ることと、古い専門的な本を売ることを一つの店で完結させるやり方は、新古書店と個性派古書店という別のビジネスモデルとしてそれぞれ発展しました。そのうち後者は古書組合に所属する店も多く、従来型の古書店の進化形として業界に受け入れられましたが、新古書店に関しては古書業界とは別の業態であると、業界も業者側も認識しているようです。
もっとも、20世紀末にあれだけ全国に広まった新古書店もいまは見る影もなく、生き残った業者も書籍以外のゲームや時計などの商品が主力になりつつあるようにみえます。高原書店がそうだったように、本にこだわった店はネット販売に活路を見いだしています。
店舗を運営する古書店はどこも経営が厳しいようです。よみた屋も通信販売を組み合わせてなんとか続けている状況です。ネット通販は、ほしい本を見つけるのには便利ですが、知らなかった本と出合う機能が弱いのが弱点です。また、データベース化されていない古い本や一点物に関しては、「日本の古本屋」など一部のサイトを除いて販売することができません。実店舗の閉店が相次ぐなかでも、新刊の独立系書店や若い古書店の開業も続いています。
各家庭にはまだまだ本がたくさんあります。紙の書物は終わりが近いと言う人もいますが、プラットフォーマーが支配するウェブ記事や電子書籍に対して、分散して所有できる紙の書物だけの価値はまだ失われていません。実際のところ、漫画を除くと電子書籍の成績はかんばしくないようです。販売数量はともかくとして、重厚な書籍の刊行点数は減っていないようです。長時間一つの書籍に向き合うには物理的な存在感が重要なのかもしれません。古書店がやるべきことも、そう簡単に尽きることがないでしょう。
『古本屋という仕事』試し読み