舩曳将仁
本作『英国ロック博覧会』は、2006年2月に刊行した拙著『ブリティッシュ・ロックの黄金時代』(青弓社)の続篇といえるものだ。前著は、1960年代初頭から70年代初頭にかけてのブリティッシュ・ロック・シーンの歴史を「教科書」的に紹介するものだった。本書は、その世界により近づくためのガイドブックである。
ブリティッシュ・ロックの世界は、まるで洞窟のように奥が深い。僕自身もいまいったいどのあたりを歩いているのか全くわからない。ただし、そのどこまで続くかわからない冒険が楽しくてしようがない。出口かな?と思ったら新たな洞窟への入り口だったり、いくつかの道が結局はひとつにつながっていたり、興味深い新種の生き物に出くわしたり、心休まるオアシスを発見したりと、並の小説やロールプレイング・ゲームよりもワクワクさせられる。
しかも、そこで出会った音楽たちが、悲しいときに慰めてくれたり、自らを奮い立たせる場面で勇気づけてくれたりするのだから、生きている限りこの冒険を続けたいと思っている。
音楽は人生や心を豊かにしてくれる。それなのに音楽業界が不振というのは、なんとも悲しい話だ。人心がすさんで、目を覆いたくなるような事件が増えている現実と、音楽をはじめとした文化を軽視する傾向の強まりが比例しているように感じるのは、僕だけだろうか?
……と、そんなたいそうな話は、この本に一切ないのであしからず。単なるガイドブックなので。
僕にとっては音楽が人生であり、人生が音楽だ。音楽は世界の共通語で、音楽が世界を救うのだ。ノー・ミュージック、ノーライフ!!
……と、そんな煮えたぎるような熱い想いも入っていないのであしからず。ほんと、単なるガイドブックなので。
僕自身が何度も音楽に助けられ、勇気づけられ、励まされてきた経験を持つので、音楽評論家である以前に一ファンとして、音楽に興味を持ってくれる人が増えればいいなと、そのきっかけを与えることができたら、こんなにうれしいことはないなという想いで、この『英国ロック博覧会』を執筆した。
本書では、1960年代初頭から70年代初頭の、ブリティッシュ・ロック黄金時代に発表された200枚のアルバムを紹介した。本書で紹介したアルバムを全て聴いていただければ、当時のブリティッシュ・ロックの面白さや多様性がわかっていただけるのではないだろうか。勢いあまって前作よりページ数が多くなってしまったけれども、時間のあるときにでもペラペラとめくって、「おっ!これは!」と感じるようなアルバムと出会ってくれればうれしく思う。
本書は、そういった単なるガイドブックなのだ。
ただし、「なんだ、単なるガイドブックか」と軽い気持ちで読もうと思えば、あまりにもマニアックな世界なので驚くはずだ。書いた本人が、その情報量にクラクラしているぐらいだから、普通の音楽ファンからすれば、「どこが単なるガイドブックやねん!」とツッコミを入れたくなるに違いない。そんなときは、ぜひとも前著『ブリティッシュ・ロックの黄金時代』とあわせてごらんいただきたい。『英国ロック博覧会』の巻末には、前著も参照できる索引がついているので、これは便利!(ちゃっかり宣伝してすみません)。
『ブリティッシュ・ロックの黄金時代』で、深遠なるブリティッシュ・ロックの世界へ「最初の一歩」を踏み出した方には、ぜひともこの『英国ロック博覧会』を手に取って、「次の一歩」に進んでみてほしい。
追記:いま読み返して気づいたのだが、本書『英国ロック博覧会』の「まえがき」と「あとがき」で「二〇〇五年」としているところは、「二〇〇六年」の間違いです。この場を借りて訂正します。