西村マリ
自分なりのBL論を書こう。私がそう決意したのは2007年の夏だった。早い話、「ユリイカ」の腐女子マンガ特集(「総特集 腐女子マンガ大系」「ユリイカ」2007年6月臨時増刊号、青土社)に刺激されたのだ。
まずは友人たちにBL研究スタート宣言をぶちかました。
みんな、私に本を貸し、情報を流してくれた。BLゲームをプレイしてくれた友人もいる。この本をまとめることができたのはそんな友人たちあってのことである。まずは感謝を捧げたい。
実際、私の周りにはBLや二次創作が好きな人が多い。こちらがカミングアウトするとヒットする確率が高いのだ。とはいえ、みんなオタク的情熱という点では同じだが、性格も違えば好みもまったく違う。二次創作に熱中しながら進化系マンガをたくさん読んでいる人もいれば、黎明期から雑誌を読み続け、王道タイプの小説を好む人もいる。ちなみに彼女はハーレクインも大好き! 一方、BLも読むが、男性分野のラノベやアニメ、萌えゲームに詳しい女性もいる。「腐女子とは?」という問いはあまり意味がない。これは実感だった。
ところが、いざ研究と勢い込んでも、どこから攻略すればいいのかさっぱり見当がつかなかった。そもそもBLは歴史も長いし規模も大きく、その内容も実に様々だ。広い世界のなかにBLを位置づけなければ意味がない。そう思った。そのためには男性サイドの動きもチェックする必要がある。萌えのあり方や戦う女性キャラについては、ヒントをくれるありがたい男性たちもいたのだ。
ブログの時代
ところで私は2002年に『アニパロとヤオイ』(〔「オタク学叢書」第7巻〕、太田出版)というオタクな本を出している。アニパロ(二次創作)の世界を扱ったディープな本だが、風邪ネタ、記憶喪失ネタ、子供ネタ、女の子ネタといった定番ネタを軸に読み解いた。
今回も、年下攻め、ヘタレ攻め、オヤジ受け、男前受け、襲い受けといった、BL界で定番化しているキーワードを道標にして語ることにした。
このように2冊の本のスタンスは共通しているのだが、相違もある。前著を執筆していたころはインターネットの普及はまだまだで、ひたすら同人誌を買い集めるか友人に貸してもらうしかなかった。
しかし今回は違う。すでにネット通販が主流になっていて、作品を入手しやすかっただけではない。2007年の研究開始当時は、ちょうどブログの全盛期で、充実したコンテンツがあふれていた。作品レビューだけでなく、キーワードでピックアップしたオススメ作品リストから年度ごとの名作ランキングまで、熱気あふれるブログの面白さに魅了され、研究が行方不明になりそうなくらいだった。ブログ主の方々にはおおいに感謝している。
つねにブラウザを立ち上げ、何かアイデアが浮かんだら、即、検索ボックスにキーワードを投入! 出てきた作品をまとめて読んだ。
楽しい! ものすごく楽しい!
新しい視点を発見する研究の楽しさはもちろんだが、どんどんBL脳が発達し、微妙な差異がわかってくる。同時に、これらのキーワードが特集タイトルになっているアンソロジーを年代順に並べて調べた。結果、BLの変遷がクリアになってきた。それはもう、ワックワクの大興奮だった。
最後に心残りについて書いておきたい――海外BLの輸入
昨年夏に一応脱稿したのだが、その後待ち時間が長かったので、変更個所が増え担当の矢野未知生さんにはお手数をおかけしてしまった。それでもBL界の重要な展開を拾いきれなかった部分もある。海外BLの輸入である。
新書館のモノクローム・ロマンス文庫をはじめ、このところいくつかの出版社から海外BLの翻訳が出されている。とりわけ驚かされたのはハーレクイン・ラブシックの登場である。本書では、「第3章 BLの王道」で、ハーレクインとの比較もおこなった。ジェイン・オースティンまでさかのぼる伝統的なロマンスの典型を受け継ぐハーレクイン。そのハーレクインがまさかのBL?!
当初筆者は日本支社独自の動きにちがいないと思ったのだが、2014年末から翻訳ものも出始めた。調べてみると、なんとハーレクイン本社系列のCarina Pressがgay fictionを扱っているではないか。時代は本当に変わったのだ。
あぁ……残念! この件を本文に入れたかった……。読者のみなさま、ぜひ頭の中で補って読んでくださいね。
それだけではない。新しい動きはいつも二次創作同人界からやってくる。『オメガバース・プロジェクト』(〔POE BACKS〕、ふゅーじょんぷろだくと、2015年―)が興味深い。ちなみに本書のカバーイラストを担当してくださったyocoさんが美麗なカバーイラストを描いているので、ぜひチェックしていただきたい。
オメガバースとは、英語圏の二次創作の世界で生まれた特殊設定で、人狼ものに基盤がある。この設定が日本の二次創作に輸入されたのだ。しばらく前から流行していたのだが、ついに商業出版にも登場したわけだ。モノクローム・ロマンス文庫で人気を集めているJ・L・ラングレーの『狼を狩る法則』シリーズ(冬斗亜紀訳〔モノクローム・ロマンス文庫〕、新書館、2013年―)も、オメガバースのバリエーションである。どうやら、BLの未来は輸出/輸入のリバーシブルな関係から展開しそうだ。
BL作家のみなさまありがとうございました。
そしてエンディングはやっぱりこの言葉。
ボーイズラブは楽しい!