第18回 『宝塚イズム38』発売と、宝塚歌劇の様々な動きに思う

鶴岡英理子(演劇ライター。著書に『宝塚のシルエット』〔青弓社〕ほか)

 いよいよカレンダーが残り1枚になりました。すでに手元にあるチケットは2019年のものが格段に多くなっていて、月日の流れの早さには驚愕するばかりの毎日です。
 そんななか、そのカレンダーがラスト1枚になった12月1日、『宝塚イズム38』が店頭に並び始めました。今号の特集は「明日海・珠城・望海・紅・真風、充実の各組診断!」と題して、男役トップスターの交代が全くない年だった2018年のいまだからこそ語れる、花、月、雪、星、宙、各組の魅力と勢力分析を語ろうという企画で、それぞれの組の魅力や可能性を「我こそは!」と自負する書き手のみなさんが語っています。
 とはいえいつものことなのですが、「書籍」である『宝塚イズム』の締切り設定は雑誌と比べてかなり早く、これらの原稿がすでに上がってきていて校正作業が始まろうかという段階で、花組トップ娘役の仙名彩世が2019年4月28日花組東京宝塚劇場公演『CASANOVA』千秋楽をもって退団、宙組男役スターの愛月ひかるが宙組博多座公演『黒い瞳』『VIVA! FESTA! in HAKATA』千秋楽翌日の19年2月26日付で専科に異動することが発表され、私を含め書き手たちは原稿の差し込みと修正作業に追われました。いずれもここでこのような人事が動くとは予想していなかった事態で、格別な想いがあります。
 仙名彩世はこれまでトップスターになるための第一関門と考えられていた新人公演のヒロイン経験をもたずにトップ娘役の座をつかんだ人で、彼女の存在が、いまも与えられた場所で懸命に努力を重ねている、後に続く娘役たちにどれほど大きな励みを与えたか計り知れません。さらに、円熟期を迎えているトップスター明日海りおの3人目の相手役でもありましたから、明日海よりも先に単独で退団する道を選んだことには驚きもありました。けれども現在舞浜アンフィシアターで上演中の『Delight Holiday』で、一世を風靡した『アナと雪の女王』の「Let it Go」を東京宝塚劇場と変わらないキャパシティーを誇る大舞台で堂々と1人センターを張って歌いきる姿を見ていると、どこかでは満願成就のすがすがしさも感じます。あと半年、彼女のトップ娘役としての輝きを目に焼き付けていきたいと思います。
 一方愛月ひかるは、同期生の芹香斗亜が二番手男役スターとして加入して以来、宙組での立ち位置に一抹の不安こそ覚えてはいましたが、芹香とは巧みに居どころを分け、なお重要な役柄を演じてきていて宙組悲願の生え抜きトップスターの期待をその双肩に担っている人という想いは変わりませんでしたから、ここでの専科異動の衝撃は大きなものでした。ただ博多座公演『黒い瞳』では、トップスターに拮抗するほどの大役であるプガチョフを演じることが決まっていますし、現在発表されている範囲での2019年の宝塚作品ラインアップを見ても、この公演には愛月が必要なのではないか?と思えるものがすでに何本もあり、二枚目役からキャラクター性が濃い役柄まで幅広く演じられる愛月が専科に異動することは、発展的思考での人事だと信じたいと思います。専科で活躍したのちに組トップとして帰還した例は過去にも多いこともあわせて、愛月の今後の活躍に期待したいです。
 そんな人の動きのなかで、これは全く締め切りに間に合いようもなかったのが、星組スターの七海ひろきの2019年3月24日星組東京宝塚劇場公演『霧深きエルベのほとり』『ESTRELLAS(エストレージャス)――星たち』千秋楽をもっての退団発表でした。紅ゆずるが率いる星組では礼真琴が二番手スターとして確立していて、上級生の七海の進退に危惧するものがなかったのか?と言われれば、確かにその懸念は常にありました。しかし、星組全体のビジュアル度を確実に高めている「美しい男役」である七海の貴重さと同時に、『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』の実質的な主人公・殤不患(しょうふかん)を堂々と演じて実力面でも申し分がない進化を遂げていた七海をぜひ大切なスターとして生かしてほしいと念願していただけに、この発表には無念の想いがつきまといました。それこそ専科に異動して多彩な活躍をしてほしかったという想いはいまも消えませんが、やはりそれは七海本人の美学にも左右されることなだけに、多くを語ることはできません。ただだからこそ、限られてしまった「男役七海ひろき」を堪能できる時間を大切にしたいですし、七海本人にもファン諸氏にも、喜びにつながるはなむけが贈られることを切に願います。
 こうなってくると、七海の同期生である月組の美弥るりかへの想いもまた大きくなっていますが、大劇場公演の休演で案じられた体調も無事に整ったようで、11月18日、連日立見席まで完売の大盛況のなか千秋楽を迎えた月組東京宝塚劇場公演『エリザベート』のフランツ・ヨーゼフ1世役を盤石に務める姿に接して、心から安堵しました。フィナーレ冒頭の歌手、また男役群舞の「闇が広がる」のセンターなどで魅せる美弥の華やかさは圧倒的で、やはりいまの月組の豊かさを語るのに欠かせない人材であることを、いわば不在が証明した形になったと思います。2019年、主演を務めるバウホール公演『Anna Karenina』も壮絶なチケット難公演と化していて、千秋楽のライブ・ビューイングも決定し、ますます大きな存在になっていくことでしょう。さらなる活躍に期待したいです。
 そんな明日海りお、珠城りょう、望海風斗、紅ゆずる、真風涼帆が率いる各組に加えて、さらにもう一つ組が必要ではないか?とさえ思えるいまの宝塚の贅沢な陣容を語った『宝塚イズム38』では同時に「若手作家を語りたい!」と題して、小柳奈穂子、生田大和、上田久美子など期待の作家陣にもフォーカスしています。豊富なスターをどれだけ輝かせることができるかは、作家がいかに優れた作品を書いてくれるかにかかってくるだけに、こうした目線での論考も随時取り上げていきたい一つです。また、前述の月組公演『エリザベート』で大輪の花を咲かせて宝塚を巣立っていった愛希れいかが最も新しい宝塚OGスターとなりましたが、そんなOGたちの活躍を今号でも数多く取り上げています。近年では、東西に分けているにもかかわらずOGたちの活動が多彩なあまり、紙幅との兼ね合いが常に悩みの種ですが、今後も宝塚育ちの表現者たちにも丁寧な視線を注いでいきたいと思っています。
 なかでも大きな柱である「OGロングインタビュー」には、女優として破竹の勢いの活躍を見せている朝夏まなとが登場してくれました。ヒロインデビューを飾った『マイ・フェア・レディ』、12月8日に初日を開ける『オン・ユア・フィート!』の話題はもちろん、宝塚時代のターニングポイント、宙組のトップスター時代、さらに現在OGとして宙組の下級生たちや宝塚歌劇全体への想いを、非常に素直な言葉で語ってくれた、8,000字に及ぶ充実の内容になっています。こちらもぜひお楽しみください。
 こうして、慌ただしい師走のなかではありますが、一人でも多くの方に新刊を手にしていただけることを願いながら、変わらずに熱い想いを込めて宝塚を見つめる一年が過ぎていくのを感じる今日この頃です。

 

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第17回 月組、美弥るりか休演に思う

薮下哲司(映画・演劇評論家)

 地震、大雨、台風と日本中、大変だった2018年の夏も終わりを告げ、ようやく秋らしくなってきました。宝塚大劇場も地震のときは「ショー・マスト・ゴー・オン」(小川友次理事長)と誰もいない劇場で公演を強行、ファンからの苦情が殺到して、さすがに台風のときは3時の回を休演するなど、危機管理のもろさが露呈されました。そんななか月組公演、ミュージカル『エリザベート――愛と死の輪舞(ロンド)』(潤色・演出:小池修一郎)宝塚大劇場公演でフランツ・ヨーゼフ役を演じていた美弥るりかが、9月22日から26日まで休演するという“事件”が起きました。
 初日に観劇したとき、ソロパートで高音が思うように出ておらず、音域が広い楽曲に思いのほか苦戦している印象で、やはり『エリザベート』という作品は一筋縄ではいかないのだなあと再認識していたのですが、やはり美弥自身の声の調子が本調子ではなかったということが、この休演でわかったのでした。
 出演者の休演は毎公演のようにありますが、今回のようなスタークラスの途中休演は最近では珍しいことです。『エリザベート』では2003年花組の東京公演のとき、退団公演だったエリザベート役の大鳥れいが体調を崩して休演、新人公演で主演した遠野あすかが急遽代役に立ったことがありました。新人公演では、カットされた曲があるため必死に覚え、やっと終わったと思ったら「まだフィナーレがある」と言われ、「やったことがなかったフィナーレがいちばん大変だった」とのちに聞いたことがあります。
 代役稽古は普段はおこなわれませんが『エリザベート』の場合は、不測の事態を考慮して必ずおこなわれていて、今回もそれが功を奏し、代役初日となった22日は2回公演とも15分ずつ遅らせて開演、フランツ役の月城かなと、ルイジ・ルキーニ役の風間柚乃らが熱演、主演のトート役の珠城りょうやエリザベート役の愛希れいかを筆頭に全員が一つのものを作り上げる緊張感にみなぎって、すばらしい出来栄えだったそうです。
 とはいえ、今回の休演騒動の裏に出演者たちの過酷なスケジュールが原因の一つに挙げられるのは想像に難くありません。このところの宝塚の過酷なスケジュールは想像を絶するもので、一般の企業ならとっくにブラックといって過言ではないでしょう。
 ちなみに今年の月組は1月が稽古、2、3、4月が宝塚大劇場と東京宝塚劇場で本公演、5月から3班に分かれて稽古、6月が赤坂ACTシアターなどで公演、7月が稽古、8月から『エリザベート』と休みなしのスケジュールが組まれていました。
 関係者の話では、美弥の場合「2、3、4月のショー『BADDY(バッディ)――悪党(ヤツ)は月からやって来る』(月組、2018年)で両性具有のような役を熱演して連日声を酷使したことで疲労がたまり、その後、休みなしに稽古、公演が続いたために、喉を休めることができなかったことが原因ではないか」といいます。
『エリザベート』は8月23日に開幕しましたが、その前の稽古の時点で、珠城、美弥らの喉の調子が本調子ではなかったため、ずっと声を出さない状態での稽古が続けられていて、演出の小池氏が初日を前にかなり焦っていたという話も伝えられています。
 完全な本調子に戻らないまま開幕してしまったわけですが、そのつけが1カ月後にまわってきたということでしょうか。休演する2日前、20日の終演後に2019年の宝塚バウホール公演『Anna Karenina(アンナ・カレーニナ)』のポスター撮影があり、それが深夜にまでずれ込み、翌21日の公演で美弥が声の異変を訴えたことから、急遽、新人公演でフランツを演じた輝生かなでが歌だけ吹き替えることになり、事なきを得ました。一日、様子を見たのですが、結局、22日から休演という最悪の事態になってしまいました。代役公演の決定は当日の朝9時。それから代役の場当たり、黒天使などの役替わりと、舞台裏は大変だったようです。出演者の体調管理の問題も浮き彫りになりました。
『雨に唄えば』(月組、2018年)に続いて『エリザベート』というスケジュールの立て方にもやや問題ありというほかありません。どちらもしっかりとした海外ミュージカルで、本来はじっくり時間をとって稽古してから本番という作品ばかり。それを1カ月あるかないかの短い稽古期間で上演という普通では考えられないサイクルで回しているのが宝塚。それをやってしまえるのも宝塚ということもいえますが、生徒たちの宝塚愛に製作サイドが甘えていて、ついつい無理をさせてしまうのだと思います。
 2019年も『ON THE TOWN(オン・ザ・タウン)』(月組)や『20世紀号に乗って』(雪組)などのミュージカルが次々に予定されています。これらはもともと宝塚のために作られたミュージカルではないので、女性だけで演じる宝塚では無理なナンバーがあります。とはいえ振りやキーを変えるとクオリティーが落ちるため、結局、出演者が無理してしまうのです。第2の美弥を出さないためにも、もう少し余裕をもったスケジュールを立ててほしいものです。
 さて『宝塚イズム38』(12月1日刊行予定)がいよいよ始動しました。現在、続々と原稿が集まってきている段階ですが、花組のトップ娘役・仙名彩世の退団が、原稿締め切り後に発表されました。これからそれをどうはめこむか頭が痛いところですが、常に動いているのも宝塚、どういうふうに料理されるか『宝塚イズム38』にご期待ください。

 

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第16回 キリシタンと宝塚歌劇の相性――『MESSIAH』を中心に

薮下哲司(映画・演劇評論家)

 月組のトップ娘役、愛希れいかのサヨナラ特集をメインにした『宝塚イズム37』が書店に並んではや1カ月、そろそろ年末(12月1日刊行予定)の『38』に向けて始動する季節になってきました。とはいえ、例年にない酷暑の夏、なかなか頭の切り替えができません。
 宝塚大劇場では現在、花組のトップスター、明日海りおが天草四郎時貞に扮したミュージカル『MESSIAH(メサイア)――異聞・天草四郎』(作・演出:原田諒、7月13日初日)を上演中です。
 天草四郎時貞は江戸時代初期、幕府による禁教令が敷かれたあとも隠れキリシタンの人々が多くいた九州・天草の地に流れ着き、島原藩主のキリシタン弾圧と過酷な年貢の取り立てに天草そして島原の人々のために立ち上がり、救世主(メサイア)といわれたカリスマ的存在の少年です。2018年6月30日に「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」が世界文化遺産に決まり、天草四郎時貞が総大将として立てこもった原城跡も指定されるという絶好のタイミングで初日を迎え、明日海の渾身の熱演もあって公演は大いに盛り上がっています。
 とはいえ2017年末、明日海率いる花組が『ポーの一族』を上演する直前にこの公演が発表され、『ポーの一族』の主人公エドガーが14歳、天草四郎時貞も16歳前後、トップスターの明日海に少年役が続くということと、いまなぜ天草四郎なのかと上演に疑問を投げかける人も多かったのですが、世界遺産が発表されたいまとなっては原田の慧眼と歌劇団の先見の明に納得せざるをえなくなったことでしょう。原田は、倭寇の頭目・夜叉王丸が天草に漂着して天草四郎時貞と名乗り、隠れキリシタンの人々の熱い信仰に感動して、弾圧する島原藩主に対して立ち上がる決意をするという新解釈でストーリーを展開、天草四郎時貞の年齢を実際よりもかなり上の20歳前後に設定しました。これなら明日海ファンもすんなりと受け入れられる設定です。そのおかげでこれまでに知られた伝説とはかなり趣が異なった作品に仕上がっているともいえますが、無神論者の少年がなぜ人々のために立ち上がり、人々はそれに従ったのかという説明には納得できるものがあり、信仰とは何かを改めて考えさせられました。
 一方、天草四郎時貞はこれまでにも何度か宝塚歌劇で取り上げられています。1972年の花組公演『炎の天草灘』(作・演出:阿古健)では甲にしき、83年の月組公演『春の踊り――南蛮花更紗』(作・演出:酒井澄夫)ではショーの一場面ですが大地真央が演じています。阿古版は、天草四郎時貞が立ち上がるまでを描いていました。それに対して原田版は、原城陥落シーンのあとエピローグも含めた完全版。1時間35分でここまでまとめた手腕はさすがでした。とはいえ、甲も大地もいずれもその時代を代表する宝塚のカリスマスター。宝塚歌劇には悲劇の美少年がことのほか似合います。
 ついでにキリシタン大名と宝塚という観点で上演歴を調べてみると、キリスト教を日本に伝えたといわれるポルトガル人宣教師フランシスコ・ザビエルの日本渡来400年記念と銘打った歌劇『高山右近』(作・演出:香村菊雄)を1949年に上演していました。神代錦がキリシタン大名の右近を演じ、星組で初演、雪組で続演しています。それに関連して63年にはローマ遣欧少年使節の悲哀を描いた大作、ミュージカル・ロマンス『不死鳥のつばさ燃ゆとも』(作:平岩弓枝、演出:春日野八千代)を上演しています。春日野が自ら中浦ジュリアンに扮して主演した話題作で、これも雪組と月組で2カ月連続上演されています。
 迫害のなか、長年にわたって生き続けた隠れキリシタンのピュアで強い信仰心は、どことなく宝塚歌劇自体の特殊性と通じるところがあり、宝塚でもたびたび取り上げられてきたようです。そのあたりを考えても、いま天草四郎時貞は宝塚歌劇で上演する絶好のタイミングなのかもしれません。「清く、正しく、美しく」は創始者・小林一三が提唱した宝塚のモットーですが、これも隠れキリシタンの精神に共通するところがあり、謎多き天草四郎の真実が、宝塚というフィルターを通して透けて見えてくるのも面白いところです。
 天草四郎時貞と隠れキリシタンからとんでもないところに飛び火してしまいましたが、宝塚歌劇はそれくらい様々なジャンルの作品を平気で羅列して上演するところです。エリッヒ・マリア・レマルクの『凱旋門』があるかと思えば、萩尾望都の『ポーの一族』があり、モンキー・パンチの『ルパン三世』まで。そこに、いかに宝塚らしさを見いだすかが作者の腕のみせどころなのです。
 2018年後半は、いまや『ベルサイユのばら』以上の切り札となった空前のヒットミュージカル『エリザベート――愛と死の輪舞(ロンド)』の再演、レオナルド・ダ・ビンチの愛憎を描いた新作『異人たちのルネサンス』、そして人気ミュージカル『ファントム』再演と続きます。安定路線のあいだに少しばかりの冒険を加えて、新鮮さを保持していくというやり方は、ここ数年のパターンです。19年以降も当分はこの方針が続いていくようです。
 トップスターの布陣は、2017年の宙組・朝夏まなと退団以降はまだ動きはありませんが、次期トップスター候補が出そろってきた19年には一気に各組の新陳代謝がありそうです。『宝塚イズム38』も、新しい動きを見据えながら準備をしていきます。ご期待ください。

 

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第15回 宙組20周年を祝う――誕生の思い出とともに

薮下哲司(映画・演劇評論家。元スポーツニッポン新聞社特別委員、甲南女子大学非常勤講師)

 新トップスター、真風涼帆、星風まどかが主演する宙組公演、ミュージカル・オリエント『天(そら)は赤い河のほとり』、ロマンチック・レビュー『シトラスの風――Sunrise』が3月16日から宝塚大劇場で開幕しました。新トップ披露とともに1998年に宙組が誕生して以来、今年で丸20年になるのを記念した公演です。
 宝塚歌劇はもともと16人の少女から出発したことはご存じでしょう。104年たった現在、花、月、雪、星、宙の5組に専科、宝塚音楽学校の生徒を加えて常時約500人の団員を抱えるスケールの大きな劇団に成長しました。しかも団員はすべて未婚の女性。公演回数は年間1,500回、動員数は270万人。都心から離れた2,500人収容の宝塚大劇場が平日昼間でも満員の盛況、こんな劇団は世界広しといってもここだけです。
 当初は「少女歌劇」という一つのグループでしたが、劇団が創立されて7年目の1921年に花組と月組が誕生しました。大阪公演に続く東京公演が大成功、本拠地の宝塚も年ごとに動員数が増え、プールを改造して作られたパラダイス劇場だけでは手狭になり、箕面にあった公会堂劇場を宝塚に移設して2館での上演が実現したことがきっかけで、年長メンバーを花組、年少メンバーを月組に分けて2班体制にしたのです。おとぎ歌劇が中心だった公演もバラエティーに富んだ演目が上演できるようになり、さらに人気が高まりました。
 その後、両劇場が火災で焼失し、4,000人収容(補助席、立ち見席を含む)の宝塚大劇場を建設、その開場に合わせて雪組が誕生しました。1924年のことです。
 星組ができたのは1933年。春日野八千代のための組ともいわれていますが、翌年の東京宝塚劇場オープンに合わせて創設されました。戦時色が濃くなり、レビューの公演が禁止され、大劇場閉鎖になった一時期、星組は廃止されますが、戦後、大劇場再開とともに復活しました。
 以後、長い間、4組体制で公演がおこなわれてきましたが、老朽化した東京宝塚劇場を改築することになり、宝塚歌劇の東京での通年公演が実現(それまで東京宝塚劇場での宝塚歌劇の公演は年間8カ月でした)することを前提に1998年、65年ぶりに新しい組、宙組が誕生したのです。組の歴史は宝塚の発展の歴史でもあります。
 その宙組誕生に際しては、因縁浅からぬ思い出があります。東京宝塚劇場の建て替え計画が発表された1997年初頭、宝塚の新しい組の誕生が噂され始めました。しかし、開場は2000年ということで、歌劇団内部でも新組増設には賛否両論があり、まだ懐疑的でした。一方、歌劇団は1998年1月下旬から香港が中国に返還されて1周年になるのを記念した香港公演が決まっていて、各組からメンバー45人が選抜されていました。この公演はスポーツニッポン新聞東京本社が創刊50周年を記念、スポンサーとなって主催した公演でした。スポーツニッポン新聞社は当時、大阪、東京、西部の3本社制をとっていて、それぞれ独立採算制でした。創刊50周年に宝塚歌劇のスポンサーになるというなら、本拠地に近い大阪本社がイニシアチブをとるのが自然ですが、諸事情で東京本社単独の主催となり、結局、記事発信は大阪、事業としては東京本社という形でおこなわれることになり、担当記者だった私は事前のパブや香港公演初日取材などでスタッフ同然に駆け回りました。
 香港公演の準備と並行して東京宝塚劇場の建て替え工事が始まり、歌劇団は建て替え中の代替劇場を模索していました。当初は帝国劇場を代替劇場として使用することになっていて、実際、1997年には雪組公演と星組公演を実施しています。ところがこれには莫大な金額がかかることが判明。あわてて別の劇場を探したのですがどこも一長一短でなかなか決まらず、八方手を尽くした結果、有楽町南側にあった都有地を新劇場オープンまでという条件付きで借りることができ、仮設の「1000days劇場」を建設することになりました。新大劇場オープンの3年前に、思いがけず通年公演も前倒しで実現できることになり、そこでローテーション的に4組では無理が生じ急きょ新組が必要となって、当初は新組として集められたものではなかった香港公演メンバーが、前倒し的に新組メンバーにスライドしたのでした。これが宙組誕生の真実です。
 香港公演の取材をしているこちらとしては、途中でこのメンバーが新組にスライドすることはわかっていたのですが、都有地のクリアに時間がかかっている裏事情もあったので記事化を抑えていたら、都有地の使用許可がまだ下りていないうちに他社が「宝塚新組結成」とスクープ、劇団が激怒して、その社の記者を出入り禁止にしたといういきさつもあります。その後都有地の使用許可が下りて5組化が実現したので、結果的には大スクープになったのですが、内情を知っているこちらにとっては痛しかゆしといったところでした。
 1997年12月12日、大阪市内のホテルで大々的に新組発表の記者会見がおこなわれました。新組の名前は一般公募され、約2万通の応募のなかから選ばれたのが「宙」組でした。書道家の望月美佐さんが屏風に巨大な筆で「宙」と大書したときは一瞬よくわからなかったのですが、それは出席していた初代トップスターの姿月あさとらも同じだったようです。2月19日に宝塚大劇場で開かれた「宙組20周年記念イベント」のときにも、「リハーサルのときにも聞いていなかったので本番で初めて知りました。最初にウ冠を書かれたので噂になっていた“虹”ではないなと思い“空”かと思ったのですが、“寅”に見えて、司会者が“そら”と言われたのも“とら”に聞こえ、一瞬、みんなで顔を見合わせました。すぐに“そら”とわかって、みんなで“寅”でなくてよかったとホッとしました」と話して、満員の会場を沸かせていました。姿月によると「空は空席とかで縁起がよくないので、宙になったとお聞きしました」と言い、「でも普通、“宙”を“そら”とは読まないですよね」と、当時の戸惑いを正直に話して、さらに笑いを誘っていました。とはいえその宙組も20年、その間に姿月あさと、和央ようか、貴城けい、大和悠河、大空ゆうひ(祐飛)、凰稀かなめ、朝夏まなと、そして真風と8人のトップスターを輩出、エネルギッシュでダイナミックな組というイメージが定着してきました。年月が過ぎるのは早いものです。

 6月1日に刊行予定の『宝塚イズム37』は、11月退団を発表した月組トップ娘役・愛希れいかの惜別特集をメインに、宙組20周年を記念して宙組の魅力をさまざまな視点から分析した特集も組みます。宙組愛に満ちた数々のエッセーをお楽しみください。

 

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第14回 2018タカラヅカ、始動!

薮下哲司(映画・演劇評論家。元スポーツニッポン新聞社特別委員、甲南女子大学非常勤講師)

 2018年の宝塚大劇場は、永遠に年を取らないバンパネラ(吸血鬼)の美少年の愛と苦悩を描いた萩尾望都原作による伝説の少女漫画を舞台化した『ポーの一族』(花組)から幕開け。連日、立ち見がでる満員盛況に沸いています。
 脚本・演出は、『エリザベート』(1996年初演)はもちろん『るろうに剣心』(雪組、2016年)や『All for One』(月組、2017年)などここぞというときには必ず登板して、ことごとく期待に応え、劇団はおろかファンからも最も信頼が厚い“宝塚のエース”的存在、小池修一郎です。彼は原作を宝塚歌劇団入団前から愛読し、宝塚入団の折はぜひ舞台化したいと念願していたという逸話が公演解説やプレスリリースにまで紹介され、原作漫画を知らないファンが観る前から特別な感情を抱くように巧みに操作された宣伝文句と、主演がこの原作の舞台化を待っていたかのようなフェアリー系スターの代表格、明日海りおとあって、期待感はいやがうえにも盛り上がりました。チケットは発売と同時に全期間完売、幸先のいいスタートです。
 短いエピソードの連続で、しかも時代を自由に行き来する原作はかなり大胆な構成で、漫画を読みつけていない者にとってはその世界観になかなか入りにくい壁があり、どんな形で舞台化するのだろうかと興味津々だったのですが、少女漫画独特の耽美的な作画の魅力を巧みに再現し、『ポーの一族』の世界を宝塚の舞台によみがえらせました。
 舞台は1964年の西ドイツ、フランクフルトから始め、バンパネラ研究家が「ポーの一族」について解き明かしていくという構成をとったのも、原作の複雑な時制を整理する役割をうまく果たしたようです。ただ、全体の構成としては、主人公のエドガーがバンパネラにならなければいけなかった理由など前半の説明部分がややくどく、エドガーが永遠の時をともに過ごすパートナーとして選ぶ後半のアラン(柚香光)とのくだりが淡白になり、ストーリーとして盛り上がりに欠いたのがやや期待外れ。ここをきっちり描かないと『ポーの一族』を舞台化する意味がないと思うのですが、原作ファンの感想を聞いてみたいもの。とはいえ、ラストのエドガーとアランが永遠の旅立ちに出る場面の2人の美しさは、宝塚でしか観ることができないものでした。
 入団当初『ベルサイユのばら』(1974年初演)の演出家・植田紳爾から「100周年のオスカルが見つかった」と注目され、以来、スター候補として大事に育てられ、花組トップスターに就任した明日海。『エリザベート』のトート、『新源氏物語』(1981年初演)の光源氏、『ME AND MY GIRL』(1987年初演)のビル、『Ernest in Love』(2005年初演)のアーネスト、『仮面のロマネスク』(1997年初演)のバルモンと先輩が演じてきたさまざまな役を演じ、本人の真摯な取り組みもあってどれも役を自分のものにしてきましたが、エドガーは本来の明日海の個性である役に初めて出合ったといえるのではないでしょうか。もう少し前に出合っていたらとも思いますが、多くの個性的な大人の男性を演じた後だからこそ表現できる少年のセクシーさというものもあって、まさにいまだけの輝きを放っています。エドガーは永遠の時を生きますが、それを演じる明日海はいまだけしかエドガーを演じることはできません。その貴重ではかない一瞬をぎりぎりに共有できたことをうれしく思います。
 明日海の次回作は博多座で柴田侑宏の万葉ロマンの名作『あかねさす紫の花』(1976年初演)で、中大兄皇子と大海人皇子の二役を役替わりで挑戦します。一路真輝、春野寿美礼、瀬奈じゅんら多くの先輩が演じてきた作品で、本人も月組時代に小さな役で出演していて、歌劇団スタッフによると、いつかは演じてみたいと憧れていた役なのだそうです。中大兄と大海人を同じ公演で二役で挑戦するのは明日海が初めてで、個性が異なる2人の皇子を両方演じるというのも明日海の幅広い演技力を証明しているようです。
 その後には『MESSIAH(メサイア)――異聞・天草四郎』で、若くして逝った悲劇のキリシタン大名に挑みます。ようやく明日海らしい作品が続きます。トップ就任後5年、充実期にさしかかった2018年の明日海りおの今後の動向に注目したいものです。
 
 元日の拝賀式に続いて9日に小川友次理事長が会見し、昨年(2017年)の実績と2018年の抱負を述べました。それによると、昨年も宝塚歌劇の動員は4年連続で270万人を超えました。本拠地の宝塚大劇場と東京宝塚劇場の両方で動員が100パーセントを超え、特に大劇場の動員の伸びが著しいそうです。100周年の余韻が続くなか、この好調を持続するために、さらなる新たな挑戦を続けていきたいとも。また生田大和や上田久美子、田渕大輔、野口幸作ら若手作家の成長を高く評価しています。デビューまで5年から10年かかる作家の育成に努めるべく今年も新人を採用し、演出部を37人に拡充するといいます。一方、チケットの発売方法を一新、一人でも多くの人に宝塚歌劇を適正な価格で観てもらえるようにするのが狙いだそうです。これと関連して、公演のライブ中継やテレビ放送の拡充も図りたいとのことでした。
 一方、2018年も台湾公演をおこなう予定ですが、将来的にはニューヨークなどの欧米での公演も視野に入れて、本場ブロードウェイで公演をしても遜色のないプロフェッショナルを育てたいという夢も披露していました。昨年『グランドホテル』(月組)で来日したトミー・チューンが愛希れいかを激賞したことも刺激になっている様子で、ニューヨークの舞台から声がかかるようなスターを育てるのが目標だそうです。好調の波に乗った、笑顔が絶えない会見だったようです。経営的な部分への質問が多く、スターの人事的な話題にはふれられませんでしたが、その分安定期ということなのかもしれません。
 4年連続270万人突破は劇団史上初の快挙で、これほどおめでたいことはありません。理事長も、チケットが取れないという苦情に対処するのがいちばん心苦しいと話していました。ただ、チケットに関しては、平日の昼間を埋めるために団体回りをする営業係の血と汗と涙の努力の結晶を忘れてはなりませんし、私設ファンクラブのチケットの大量買い占めに頼っていることなどまだまだ問題はたくさんあります。毎公演観る人も多く270万人のうち何人がリピーターかということを考えると、実質的にはファンの数はその半数にも満たないのではないかという統計の専門家もいます。熱心な宝塚ファンに支えられて、いまの繁栄があるというのも事実でしょう。
 とはいえ東京宝塚劇場の雪組公演も滑り出しは好調で、2018年の宝塚は順風満帆の船出といってよさそうです。わが『宝塚イズム』は12月発売の『36』が朝夏まなとのサヨナラ特集をメインに好評に推移し、6月1日発売予定の『37』に向けて動きだす新春を迎えています。本体の好調の原因を徹底的に解明する特集を組むのも面白いかも。そんなことも考えながら、編集会議に臨む所存です。
 
 では今年も『宝塚イズム』をよろしくお願いいたします。

 

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第13回 朝夏まなと退団、そして2018年の宝塚

薮下哲司(映画・演劇評論家。元スポーツニッポン新聞社特別委員、甲南女子大学非常勤講師)

『宝塚イズム36』発行日の12月1日が迫ってきました。今号も執筆メンバーの宝塚愛に満ちた熱い原稿が多く集まり、すでに校了。印刷そして発売を待つばかりの最終段階になっています。
 最新号のトップを飾るのは、11月19日、東京宝塚劇場公演『神々の土地』『クラシカル ビジュー』千秋楽で退団した宙組トップスター朝夏まなとのさよなら特集です。丸2年という短い就任期間でしたが、作品に恵まれ、濃い2年間だったことが、寄せられた惜別の原稿にもよく表れていました。最後に巡り合った『神々の土地』のロマノフ王朝最後の貴公子ドミトリー・パブロヴィチ・ロマノフは、朝夏本人にとってもファンにとっても、長く記憶に残る当たり役だったと思います。退団が宿命づけられている宝塚のスターにとって、退団後もファンの記憶に残る作品に出演できることは非常に大事なことだと改めて思いました。退団後に女優として活躍しているOGの宝塚時代の代表作を聞かれて、誰も知らない作品のタイトルを言わないといけないことほど寂しいことはありません。大地真央なら『ガイズ&ドールズ』(1984年初演)、一路真輝なら『エリザベート』(1996年初演)、最近では早霧せいなといえば『ルパン3世――王妃の首飾りを追え!』(雪組、2015年)、『るろうに剣心』(雪組、2016年)とすぐに出てくる人はいいのですが、出ない人のほうが多くて悔しい思いをしたことが何度もありました。『神々の土地』が再演されて、初演は朝夏だったといわれるようになってほしいものです。
 一方、過去を振り返るばかりではなく、年明け最初の話題作、1月1日から宝塚大劇場で開幕するミュージカル『ポーの一族』(花組)への期待を込めた「少女マンガと宝塚歌劇」についての小特集も組みました。『ポーの一族』は、11月16日にパレスホテル東京で盛大に制作発表会見がおこなわれて作品の一端がベールを脱ぎ、明日海りお扮する美少年エドガーの妖しい美しさに、会場の出席者は「この世のものとは思えない」と一様に思わずため息が出たようです。
 この作品の原作は、萩尾望都の少女マンガの伝説的な名作。演出の小池修一郎が、宝塚歌劇団に入団する前の1970年代のはじめごろ、萩尾が原作を発表したころからの熱烈な読者で、宝塚歌劇団に入った暁にはこの作品をぜひ舞台化したいと念願していたといういわくつきの作品。作品が発表された当時、私の周囲にも『ポーの一族』の熱狂的な信者がいて、よく話を聞かされていたので、当時の少女マンガファンにとって特別な作品であることは理解していました。その後、劇団Studio Lifeが上演した『トーマの心臓』(1996年初演)や『訪問者』(1998年初演)などで萩尾作品にもふれましたが、瞳がキラキラ輝く少女マンガ独特の絵柄にどうしてもなじめず、『ポーの一族』はずっと読んだことがありませんでした。今回、舞台化が決まったということで、初めて原作に目を通しました。
 永遠に年をとらないバンパネラ(吸血鬼)一族の少年が主人公の話だったんですね。シェークスピアの『真夏の夜の夢』を宝塚で舞台化した小池の初期の秀作『PUCK』(1992年初演)にも通じる内容であることがわかり、小池の胸の中にはずっと『ポーの一族』が渦巻いていたのだなあといまさらながら納得。年をとらないことを周囲の人たちに悟られないように、時空を超えて転々と引っ越しを繰り返すという設定も、宝塚にはふさわしい題材だと思いました。そういえば美人女優ブレイク・ライヴリーが主演した映画『アデライン、100年目の恋』(監督:リー・トランド・クリーガー、2015年)が同じ設定だったことを思い出しましたが、洋の東西、考えつくことはあまり変わらないですね。
 問題は主人公のエドガーの14歳という年齢の設定。しかし、これも姿形は14歳でも、長年生きていることから精神的には成熟しているという解釈でクリアするのだとか。小池氏は会見で「入団時点で宝塚に『ベルサイユのばら』ブームがきていて、少女マンガと宝塚が親和するのはわかっていたし、いつかぜひやりたいと思っていたのが『ポーの一族』だった。主人公が少年なので、宝塚では難しいかなと思った時期もあったが、ポスター撮影での明日海の扮装を見て、明日海でやれるまで運命の神が待ちなさいと言ったんだなと思った」と語って、いま舞台化する意味と作品への熱い思いを語りました。
 エドガーを演じる明日海は、赤いバラをもって主題歌「悲しみのヴァンパイア」を披露したあと、「原作を読めば読むほど魅力的で、すっかり『ポーの一族』の世界にはまっています。エドガーは少年だけれど、何百年も生きていて、周りにいる普通の少年たちとは明らかに違うものをもっているはずですから、彼のオーラや、少年の姿でありながらのセクシーさ、永遠に生きなければならない悲しみを表現したい」と抱負を述べました。
 そんな2人を傍らで見守りながら、原作者の萩尾氏も「長い間待たされたけれど、私のイメージを超えた美しい世界が目の前に広がるのが予感できて、いまからドキドキわくわくしております」と舞台化への期待を込めました。
 宝塚版は、原作の第2巻(〔フラワーコミックス〕、小学館、1974年)所収の「メリーベルと銀のばら」のエピソードがメインになり、問題の年齢設定は明確化されないそう。小池は、「みなさん一人ひとりさまざまなイメージがあると思いますが、私たちで、いまの花組でできるベストの作品を作りたい」と明言していました。いずれにしても、宝塚の2018年最初にしていちばんの話題作であることは確か。『宝塚イズム36』では甲南女子大学メディア表現学科准教授で少女マンガと宝塚歌劇の両方に精通している増田のぞみさんに原稿を依頼、『ポーの一族』の宝塚での舞台化の意味と期待を執筆していただきました。熱心な宝塚ファンでもある増田さんらしい鋭い分析で読み応えがある原稿が送られてきました。ぜひお楽しみください。
『ポーの一族』を筆頭に、宝塚歌劇は2018年も新作に加えて名作の再演と話題作が目白押し。気が早い話ですが、編著者としては気持ちはすでに『宝塚イズム37』に動きかけています。次の発行は6月1日の予定。どんな特集が組めるのか、いまからあれこれ考えるのが楽しみです。

 

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第12回 スターと作品の戦略的出合い

鶴岡英理子(演劇ライター。著書に『宝塚のシルエット』〔青弓社〕ほか)

『宝塚イズム』が年2冊刊行になり、じっくりと宝塚の半年、そしてその先を検証していこうという基本方針が固まったのと並行して、宝塚に日々起こっている事柄もなんらかの形で書き留め、読者の方々、宝塚ファンの方々と共有したい、という思いでスタートしたウェブ連載「『宝塚イズム』マンスリーニュース」も、早くも12回目を迎えました。以前にも申し上げましたように『宝塚イズム』制作繁忙期には休んでいるので、1年以上が過ぎたことになります。月日がたつのはなんと早いことか!と驚きを禁じえません。本当に1年は矢のように過ぎていくものですね。だからこそ1日1日を大切に過ごさなければと思いながら、ひたすら時間に追われているのが実情なのがつらいところです。
 そんな日々のなかで、この原稿がアップされるころには宙組トップスター朝夏まなとが宝塚大劇場に別れを告げていることになります。太陽のようなトップスターでありたいと言っていた、その言葉どおりの明るさで組を率いてきた朝夏のラストランにもいよいよ加速がかかる寂しさは、宝塚の宿命とはいえ何度体験しても切ないものです。『宝塚イズム36』には、そんな思いが詰まった、力のある原稿が集まるはずです。ご期待いただきたいと思います。
 その一方で、次代の宙組トップコンビ真風涼帆と星風まどかのプレお披露目公演が、ブロードウェイ・ミュージカルの金字塔『WEST SIDE STORY』(2017年)、さらに大劇場お披露目公演が、篠原千絵の同名少女マンガを原作としたミュージカル『天は赤い河のほとり』と『シトラスの風――Sunrise』(2018年)に決まりました。『WEST SIDE STORY』も『天は赤い河のほとり』も、なるほど、新トップコンビにピッタリだな!という作品ですし、宙組発足20周年の記念イヤーに、宙組誕生第1作の演出の栄誉を担った岡田敬二のレビューを、ロマンチック・レビュー・シリーズ20作目の記念と合わせて上演するというのも非常に卓越したアイデアで、ポンと膝を打ちました。しかも、2017年に『はいからさんが通る』(花組)、18年に『ポーの一族』(花組)と、少女マンガ史に残る作品の上演予定が目白押しだったところに、さらに『天は赤い河のほとり』が加わるという話題性も大きく、宝塚歌劇団の企画力を感じます。このあたりも『宝塚イズム36』の新トップへの期待の小特集1、また少女マンガと宝塚を考える小特集2で大いに語られるにちがいありません。
 そうしたラインアップのなかでも、私個人が思わず「そうきたか!」とうならされたのが、雪組新トップコンビのお披露目公演『ひかりふる路――革命家、マクシミリアン・ロベスピエール』(2017年)の楽曲を、世界のミュージカルシーンで活躍する気鋭の作曲家フランク・ワイルドホーンが全曲書き下ろすというニュースでした。これには本当に驚かされましたし、かなり興奮もしています。というのも、こう事態が動いたいまだからこそいえるのですが、雪組新トップスターとなる望海風斗のお披露目公演の題材がマクシミリアン・ロベスピエールを題材にしたオリジナル作品だと聞いたときには、ちょっと首を傾げたからです。もちろん望海の骨太な個性に、人類の平等を夢見て革命に理想を燃やしフランス大革命を成し遂げながら、のちに自らが独裁者となっていくロベスピエールの波乱万丈の人生がとてもマッチするだろうことに異論はありませんでした。「『ベルばら』共和国」とも称される宝塚歌劇で、マリー・アントワネットを断頭台に送った側の人物を、生田大和が主人公としてどう描くのか?という興味も大いにありました。ただ、危惧されたのはタイミングでした。今年(2017年)宝塚では『THE SCARLET PIMPERNEL』(星組)、『瑠璃色の刻』(月組)とフランス大革命の時代を描いた作品の上演がすでに2本あり、七海ひろきと宇月颯がそれぞれの作品でロベスピエールを演じています。いくら主人公として描かれるとはいえ、新トップスターが今年3人目のロベスピエールというのはどうなんだろう、『1789――バスティーユの恋人たち』(月組、2015年)の上演がそれほど前のことではないことも含めて、この時代設定に、ロベスピエールに、宝塚ファンがどうしても既視感を抱くのではないか?、と案じられたのです。
 けれども、フランク・ワイルドホーンという隠し玉の登場で、この杞憂は一気にはじけ飛びました。何しろワイルドホーンは現代のミュージカルシーンを作り上げた作曲家です。難度の高い楽曲を、朗々と劇場中に響き渡るほどの大声量で歌い上げるナンバーが立て続く。どこが山なのかがある意味わからなくなるほど、大ナンバーに次ぐ大ナンバーで圧倒する。このミュージカルの一つの潮流が作られたのには、彼の出現が大きく関与しています。そのワイルドホーンのミュージカルならではのよさや彼の楽曲のスケール感を、望海の歌唱力ならば、そしてトップ娘役になった真彩希帆の歌唱力ならば、見事に体現してくれるでしょう。しかも全曲が書き下ろし。男役を想定して書かれた「ひとかけらの勇気」が宝塚のすばらしい財産になったことを考えると、『ひかりふる路』の楽曲が今後どれほど大きな価値をもつかを考えるだけでワクワクします。雪組の新トップコンビが歌を最大の武器とする人材だったこととこの企画は、もちろん無縁ではないでしょう。
 こう考えると、まずスターありきだった宝塚に、ひょっとしたら変化が生まれつつあるのかもしれない、という推論も成り立ってくるように思います。ブロードウェイ・ミュージカルの傑作古典、有名少女マンガ、そしてフランク・ワイルドホーン。雪組も宙組も新トップコンビならでは、と思える企画ばかりが見事にそろいました。でも一方、こういう企画が先にあって、それに見事にマッチしたスターが選び出されているのでは?と思うと、特にトップ娘役の人選には非常に腑に落ちるものも感じられるのが、とても興味深い点でもあります。もちろんこれは勝手な想像ですから、「いやとんでもない、スターに最適な作品を選んだのです」といわれるかもしれない。もともと鶏が先か卵が先かという話でもありますから。でも、いずれにせよ、創立100周年という華やぎを超えた宝塚歌劇が、新世紀最初の10年を進むために、かつてないほど戦略的な舵取りをしていることだけは、確かに見えてくるのです。スターの個性と刺激的な作品のマッチング、その成果にさらに注目していきたい2017年から18年の日々が続いていきます。

 

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第11回 千秋楽中継に見る宝塚の変化と進化

薮下哲司(映画・演劇評論家。元スポーツニッポン新聞社特別委員、甲南女子大学非常勤講師)

 宝塚史上最強のトップコンビといわれた早霧せいな・咲妃みゆの2人が、7月23日の雪組『幕末太陽傳』『Dramatic“S”!』東京公演千秋楽で、宝塚歌劇団を無事卒業しました。当日の模様は最近の千秋楽恒例になった全国東宝系と台湾の映画館でライブ中継されました。今回は特に上映館数が多く、直前にも上映館が追加されるなど、あらためて2人の人気が証明される盛況になりました。
 東京宝塚劇場の千秋楽のチケットは、チケットサイトでは30万円のプレミアがついたといわれていますが、ライブ中継のチケットでさえも3倍以上の値で取り引きされたといいますからびっくりです。100周年以降、蘭寿とむ、壮一帆、凰稀かなめ、柚希礼音、龍真咲、北翔海莉と6人のトップがすでに退団、それぞれ熱気を帯びたサヨナラでしたが、今回の早霧・咲妃の退団の過熱ぶりは想像をはるかに超えたものになったようで、これほどのサヨナラフィーバーはもう当分ないだろうとさえいわれています。
 トップスターのサヨナラ公演の東京公演千秋楽の様子が全国の映画館でライブ中継されるようになったのはいつごろからだろうと思い返してみると、2015年の柚希退団のときくらいからではないかと思われますので、まだそんな前ではありません。年に一度の祭典『タカラヅカスペシャル』や宝塚歌劇100周年夢の祭典『時を奏でるスミレの花たち』などの特別なイベントの全国的な映画館ライブ中継はありましたが、サヨナラ公演千秋楽のライブ中継は宝塚バウホールや東京、大阪、福岡などの大都市の映画館でのライブに限られていました。全国の映画館でのライブは柚希が最初ではなかったかと。柚希の千秋楽ライブ中継はさいたまアリーナでもあり、それを観ていたファンが、終了後、日比谷に大挙してどっと流れてきたことでちょっとした話題になったものです。柚希の大成功で、最近はサヨナラ公演でなくても東京公演千秋楽はすべての公演でライブ中継がおこなわれるようになり、早霧・咲妃のサヨナラ公演はついに宝塚大劇場千秋楽も全国ライブ中継が実現、宙組公演『A Motion』(2017年)のような梅田芸術劇場での外箱公演までも全国の映画館でライブ中継されるようになりました。
 映画館といってもシネマコンプレックスですから、チケットの売れ行きによって大きなスペースだったり小さなスペースだったりとさまざまに変化しますが、料金は一律4,600円で変わりません。東京公演のサヨナラ千秋楽は1時半に開演して終了は6時半ごろになりますから正味5時間。単純に計算して映画3本分になりますのであながち高いとはいえないのですが、その昔、宝塚大劇場でのトップのサヨナラ千秋楽のときは、チケットを買えなかったファンのためにロビーにテレビを置き、場内の様子を中継、無料で開放していたことを思うと、時代も変わったものだなあと思うことしきり。小さなテレビ画面を食い入るように見つめていたファンの熱い視線が忘れられません。もちろんロビーに集まるファンの多さが人気のバロメーターになったものでした。テレビがプロジェクターに変わり、大劇場に隣接するエスプリホールで中継するようになってから有料になったと記憶しています。そのころはまだ1,000円程度でしたが。いまや宝塚の千秋楽中継は、東宝の年間売り上げを左右するほどの一大イベントになっているようです。
 さて退団した早霧は、退団後10日ほどたった8月初旬、11月に東京と大阪で『SECRET SPLENDOUR』(構成・演出:荻田浩一)と題するコンサートで再出発することを発表しました。東京での千秋楽では、終了後の記者会見で、退団後については「軍の機密」とユーモアたっぷりに言明、男役との決別に対しては涙を見せたと聞いていたことから早期の芸能界復帰はないかもと思っていたので、思いのほか早い再出発の発表にはちょっと驚かされました。とはいえ、舞台人としての可能性は計り知れないと思いますので大歓迎。今後どんな舞台を見せてくれるのか、いずれ『宝塚イズム』のOGインタビューに登場してもらって、そのあたりをじっくり聞いてみたいと思います。
 早霧・咲妃以外にも鳳翔大、香綾しずる、桃花ひな、星乃あんりといった、早霧・咲妃の2人を支えてきたメンバーも同時に退団、次期トップコンビ望海風斗・真彩希帆を中心とした新生雪組はがらりと雰囲気が変わりそうです。そんな新生雪組は、8月25日から始まる全国ツアー公演『琥珀色の雨にぬれて』からスタートします。前トップが退団後初コンサートを発表したかと思うと、宝塚では丸1カ月で新しい組が始動する。そんな目まぐるしい動きの連続で、宝塚は少しずつ、しかしドラスティックに変わっていきます。
 そんな宝塚のダイナミックな動きを正確に、確実にお伝えしていこうというのが『宝塚イズム』の大きなテーマ。その最新号『宝塚イズム36』ですが、すでに大体の構成は固まり、現在、執筆メンバーに原稿を依頼している段階です。
 次号のメイン特集は、早霧・咲妃に続いて今年末で退団する宙組のトップスター朝夏まなとのサヨナラ特集です。朝夏といえば佐賀県が生んだ最初のトップスター。星組トップの紅ゆずるとは同期生です。早くから新人公演の主役に起用され、次代のスターとして大事に育てられてきました。ひまわりのような明るさと、手足の長さを駆使したダイナミックなダンスが魅力的な男役です。トップに就任して丸2年。退団はちょっと早すぎるような気もしないではありませんが、それも一つの決断。退団公演『神々の土地』にかける彼女の意気込みに期待しましょう。さまざまな面から彼女の魅力にアプローチ、朝夏との惜別にふさわしい特集をお約束します。
 もちろん、望海を中心とした新生雪組と真風涼帆を中心とした新生宙組への期待といった、2018年、新たな宝塚の展望を見据えた小特集にも興味深い原稿が集まりそうです。大いに期待していただきたいと思います。
 一方、10月には花組で大和和紀原作『はいからさんが通る』、来年1月には同じ花組で萩尾望都原作『ポーの一族』と少女マンガの王道というべき2作が次々に上演されます。『はいからさんが通る』はかつて関西テレビ『宝塚テレビロマン』(1979年)で、花鳥いつき、平みち、日向薫、剣幸、遥くららといった豪華メンバーでドラマ化されたことがありますが、以来、初めての舞台化。『ポーの一族』は、1974年に刊行されたときから小池修一郎が宝塚での舞台化を念願していたという作品。『ルパン3世――王妃の首飾りを追え!』(雪組、2015年)、『るろうに剣心』(雪組、2016年)と少年マンガの舞台化が続いた宝塚にあって、久々、少女マンガの王道作の登場。この2作の上演に合わせて宝塚歌劇と少女マンガの特集も組みます。
 と、こう書いただけで早くも手に取りたいと思われたファンの方、それは相当な宝塚ファン。発売日はまだ先ですが、首を長くしてお待ちください!

 

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第10回 宝塚激動の夏のなかで

鶴岡英理子(演劇ライター。著書に『宝塚のシルエット』〔青弓社〕ほか)

 早霧せいな&咲妃みゆコンビへの惜別の言葉を中心に、盛りだくさんでお届けした『宝塚イズム35』の発刊から早くも2カ月がたとうとしています。この間の関東はちょっとしばらく記憶にないくらいの空梅雨で、「梅雨明け宣言」といわれても、いつ梅雨があったのだろうか?というほどの日照り続きでした。これでは夏場に水不足になりはしないかと大変案じられますが、一方で九州、また東北などをはじめあちこちで激しい豪雨があり、大きな被害が生じているということで、まず心からお見舞い申し上げます。地球温暖化の影響か、温帯地方だったはずの日本もどうやら亜熱帯・熱帯にジリジリと近づいているようで、夕立などという言葉では到底収まらない激しい雨が一気に降ることが増えました。少女のころ亡き森瑤子さんの小説に頻繁に登場した「スコール」という雨の降り方の描写がいまひとつピンとこなくて、「どうも夏の夕立よりもかなり激しい降り方の雨らしい……」などと想像していたものですが、最近は「きっとこれがスコールなんだろうな」と思う雨がしばしば降るようになりました。なんとか少しでも穏やかな気候が取り戻せるといいのですが。
 などと思い巡らせて鬱々としてしまうときこそ、宝塚観劇がいちばん!なのですが、その宝塚にも激震が走りました。すでに退団を発表している宙組トップスターの朝夏まなととともに同時退団をするメンバーの発表、そして翌日の宙組次期トップコンビ発表、さらに組替え発表は、近年にないと思えるほど大きな動きだったように思います。
 宙組の次期トップスターが真風涼帆だったのは、逆にこの人でなかったほうが天地がひっくり返っただろう!というほどの順当なものでしたから、唯一驚きはありませんでしたし、次期トップ娘役の星風まどかも、まだ組配属前のいわゆる「組回り」中の研1生だった段階で、宙組前トップスター凰稀かなめの退団公演『白夜の誓い――グスタフⅢ世、誇り高き王の戦い』(宙組、2014―15年)で、主人公グスタフⅢ世の少年時代を演じていきなりセリ下がりをしたり、同時上演の『PHOENIX 宝塚!!――蘇る愛』でも通し役のバードを演じるという大抜擢で登場した娘役です。星風はその後も続けざまにバウホール公演ヒロイン、ドラマシティ公演とKAAT神奈川芸術劇場公演で東上ヒロイン、新人公演では『王家に捧ぐ歌』(宙組、2015年)のアイーダ、『エリザベート――愛と死の輪舞』(宙組、2016年)のエリザベートと、宝塚の娘役としては最も大きいといってもいい大ヒロインを次々に演じ、全国ツアー公演『バレンシアの熱い花』『HOT EYES!!』(宙組、2016年)、そして宙組次回公演『神々の土地』『クラシカル ビジュー』(宙組、2017年)でのポスター入りと、まさに破竹の勢いで駆け上がっていました。ですから、いずれ遠からずトップ娘役に就任するだろうことは、誰しもが想像していたことではあれ、このタイミングで、宙組で!という驚きにはやはり大きなものがありました。いうまでもなく宙組には伶美うららという、星風が彗星のごとく現れた前述の『白夜の誓い』上演時に、すでに2番手の娘役の立場でポスター入りしていた美貌の娘役がいたからです。
 確かに伶美には歌唱力に足りないものがあるというウィークポイントはありましたが、過去にも遥くらら、檀れいなど、同様の弱さはもちながらも、トップ娘役として大輪の花を咲かせた娘役たちがいました。その共通点は、何はさておいても……と思わせる美しさで、伶美のそれも先人たちに勝るとも劣らないものでした。特に朝夏とコンビを組んだ『翼ある人びと――ブラームスとクララ・シューマン』(宙組、2014年)や、愛月ひかるとコンビを組んだ『SANCTUARY』(宙組、2014年)など、伶美のクラシカルな美貌と芝居力が、作品全体をより深いものにした情景がいくつも思い出されるだけに、そんな伶美が朝夏とともに、トップ娘役という称号を得ずして宝塚を去るという顛末には、一ファンとして無念なものが残りました。宝塚の娘役は、本当にわずかな一つのタイミングで、その命運が大きく異なってしまうもので、残念ながら伶美もその一人になってしまったようです。彼女がトップ娘役になってくれたら観てみたいと思っていたあまたの夢の役柄は夢のままになってしまいましたが、せめて朝夏の退団公演が、伶美にとっても有終の美を残す公演となってくれることを祈っています。そして、花組から芹香斗亜を2番手に迎えて、真風&星風を頂点にまったく新しい風が吹くだろう次の宙組が、愛月をはじめとしたこれまで宙組で頑張ってきた組子たちにも、働き場の多い作品に恵まれることを願っています。
 そんな激動を続ける宝塚で、7月23日、雪組トップコンビ早霧せいな&咲妃みゆを含めた7人が、この夢の園に別れを告げて去っていきました。千秋楽の『早霧せいなサヨナラショー』は雪組のトップスター時代の曲を網羅した構成でしたが、なかでも際立っていたのは、平成のゴールデンコンビと謳われた早霧と咲妃らしく、2人の場面の比重が大きかったことでした。個人的にも熱望していた『Greatest HITS!』(雪組、2016年)の「オーバー・ザ・レインボー」でのデュエットダンスの再現はもちろん、2人のデュエット曲が『ルパン3世――王妃の首飾りを追え!』(雪組、2015年)、『私立探偵ケイレブ・ハント』(雪組、2016年)、『ローマの休日』(雪組、2016年)と3曲ものメドレーで歌われていて、非常に印象に残りました。退団記者会見での早霧本人の弁によれば「私のサヨナラショーであると同時に、咲妃と2人のサヨナラショーであると思っていたので、デュエット曲の選択については咲妃の意向もたくさん入っています」ということで、どこまでも相手役を尊重している早霧の男気と、早霧と咲妃という、2人がそこにいるだけで観客が幸福を感じることができた「平成のゴールデンコンビ」の神髄を改めて見た思いがしました。
 もう一つ印象的だったのは、サヨナラショー、最後の挨拶、退団記者会見と、セレモニーのすべてが最近には珍しく涙、涙のなかにあったことで、早霧の「できることなら一生男役でいたかった」という言葉に、ずっしりと重いものを覚えました。それがかなったならどんなにすばらしかったことか……と思いますが、それがかなわないことが、宝塚が100有余年の歴史を築いてきた源でもあるのでしょう。この日同時退団した鳳翔大、香綾しずる、さらに咲妃みゆ、それぞれの次の動きが早くも聞こえてきているのはうれしいことです。ほかの退団者のメンバー、そして誰よりも激務の日々を送ってきただろう早霧には、しばらくゆっくりする時間をとってほしいという気持ちももちろんありながら、きっとまたどこかで、必ずやあのすばらしい笑顔に出会えると信じています。本当にお疲れさまでした。さようならは言いません。「See you Again!」

 

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第9回 早霧・咲妃コンビを大特集! 内容充実の『宝塚イズム35』

薮下哲司(映画・演劇評論家。元スポーツニッポン新聞社特別委員、甲南女子大学非常勤講師)

『宝塚イズム35』が6月1日に発売されました。今回のメイン特集は、『幕末太陽傳(ルビ:ばくまつたいようでん)』東京宝塚劇場千秋楽の7月23日付で宝塚を卒業する雪組の人気トップコンビ、早霧せいなと咲妃みゆのサヨナラ特集です。
 この2人は、100周年後の2015年正月に『ルパン3世――王妃の首飾りを追え!』(雪組)で宝塚大劇場でのトップ披露を飾り、以来、退団公演までの全公演が前売りで完売という前代未聞の記録を作りました。宝塚の長い歴史のなかで、トップ在籍中の公演すべてが完売したのは初めてのことだといいます。100周年人気の余韻のなかで、話題性がある演目に恵まれたこともありますが、タカラジェンヌとしての資質に加えて、2人の舞台人としてのたゆまぬ努力のたまものが、この記録を生んだのだと思います。
 早霧の初取材のとき、宝塚音楽学校の受験のために初めて大阪に来たときの思い出を話してくれました。梅田から宝塚行きの阪急電車が8両連結だったことにびっくり。「佐世保では2両連結の電車しか見たことがなかったから、なんて都会なんだろう、と思った」というのです。好きで受験したとはいえ「こんなところで1人で生活できるのだろうか」と漠然と不安を感じたようです。遠い九州からたった1人で都会に出てきた少女の戸惑いが実感として迫り、強く印象に残っています。そんなか弱い少女が、18年後、こんな立派なトップスターになるとは誰が予想したでしょうか。
 2001年初舞台。戦時中のタカラジェンヌの苦難の歴史を描いた藤原紀香主演のテレビドラマ『愛と青春の宝塚――恋よりも生命よりも』(フジテレビ系、2002年)に、収録当時の研1生がエキストラ出演していて、同期の沙央くらまらとともに早霧の初々しい姿も見られます。当初は宙組に配属され、アイドル的な美貌とダンスの切れ味で注目されましたが、背の高い男役が多かった宙組にあって、どちらかというと埋没ぎみでした。研6のとき、和央ようか・花總まりの退団公演『NEVER SAY GOODBYE』(宙組、2006年)新人公演で初主演、ようやくエンジンがかかりました。
 その後雪組に組替えとなり、このあたりから劇団は、早霧をトップ候補として全面的に押し出していきます。しかし、このころは早霧のやる気と役の大きさがまだアンバランスで、歌唱力にも課題があり、かなり無理をしている感じがあって、見ているほうがつらかったこともありました。壮一帆トップ時代の『Shall we ダンス?』(雪組、2013―14年)の女役への挑戦から、それが抜けるように見事になくなり、あとはもうご存じのとおりです。
 サヨナラ公演の『幕末太陽傳』は、宝塚大劇場で大好評裏に上演を終え、6月16日から東京宝塚劇場での公演が始まります。幕末の品川宿を舞台に、江戸落語の『居残り佐平次』をメインに『品川心中』『三枚起請』『お見立て』といった噺を随所にちりばめた人情喜劇。1957年制作の日活映画『幕末太陽傳』(監督:川島雄三)を、小柳奈穂子が宝塚風のミュージカル・コメディとして巧みにアレンジしました。早霧が演じるのは、映画でフランキー堺が演じた佐平次。労咳(結核)を病み、死に場所を求めて品川にやってきた口八丁手八丁の佐平次が、幕末の品川に生きるバイタリティーあふれる人々の姿を見て再び生きる勇気をもらうまでを、早霧は、明るさのなかにも陰影をつけて、人間賛歌を謳い上げることに成功しています。『ルパン3世』や『るろうに剣心』(雪組、2016年)などのアニメキャラクターを宝塚の舞台で作り込んだ貴重な経験が、この舞台で見事に開花したといっていいでしょう。100周年後の新たな宝塚の男役像を築き上げてのラストステージ、『宝塚イズム』の執筆者たちも熱いメッセージを寄せてくれました。
 一方、相手役の咲妃みゆは、2010年初舞台の96期生。月組に配属後、期待の娘役として早くから大役に起用され、清純な娘役から大人の役まで演じるたびに大きく成長してきた、天性の素質をもつ宝塚の娘役の枠を超えた舞台人です。その類いまれなる歌唱力で芝居だけでなくショーでも活躍。昨年(2016年)の『Greatest HITS!』(雪組)では、マドンナの難曲「マテリアルガール」を見事に歌いこなして観客を驚かせました。サヨナラ公演の『幕末太陽傳』では、吉原から品川に流れ着き、お客をえり好みするうちに、後輩のこはるに板頭(トップ)の座を奪われてしまう相模屋の女郎おそめ役。宝塚のトップ娘役のラストステージとは思えない役どころですが、咲妃らしく、そこは品よく、はかなげに、しかし芯がある演技でラストを飾っています。早霧、咲妃という花も実もある2人だからこそ実現したファイナルステージになったのではないでしょうか。そんな2人に対する特集原稿は、退団を惜しむ声で埋め尽くされました。宝塚史上希有なトップコンビの退団に対する惜別の文章をごらんください。
 そして、早霧と咲妃については退団後の活躍も期待したいと思います。2人とも作品と運に恵まれれば、女優として大成できる可能性を十分秘めていると思います。宝塚は、月丘夢路、乙羽信子、淡島千景、新珠三千代、八千草薫、有馬稲子と、戦後すぐの映画黄金時代に娘役から多くの女優を輩出しています。このあたりの人の生の舞台はさすがに観ていませんが、ぎりぎり朝丘雪路や浜木綿子、扇千景そして淀かほるあたりはかすかに記憶があります。『風と共に去りぬ』が1966年に東宝で初めて舞台化されたとき、スカーレットが有馬稲子、メラニーを淀かほる、ベル・ワットリングは浜木綿子と、主要キャストをすべて宝塚出身女優が占め、大きな話題になったものです。
 その『風と共に去りぬ』ですが、宝塚で初演されてから今年で40年になります。今年は、宝塚が初めてレビュー『モン・パリ――吾が巴里よ』を上演して90年という節目の年にもあたり、宝塚的にはそちらのほうにスポットが当たりがちですが、ポスト『ベルサイユのばら』(1974年初演)の急先鋒として1977年に初演され大ヒット、宝塚の現在に至る隆盛の一翼を担った作品として忘れるわけにはいきません。その月組初演のスカーレットは順みつきでしたが、続演した星組のスカーレットに抜擢されたのが遥くらら。彼女は在団中に2度スカーレットを演じ、退団公演になった1984年の雪組公演でのスカーレットは歴代最高といわれる名演技でした。元毎日放送記者の宮田達夫さんがその当時の思い出をつづってくださいました。
 もちろん、レビュー90周年をことほいだ「宝塚レビューの魅力」についての論考も特集します。もともとは「お伽歌劇」から始まった宝塚がレビューを取り入れたことによって、歌劇団のコンセプトが大きく変貌しました。そのレビュー自体も、時代とともに変化する観客の嗜好に合わせて、大きく様変わりしてきています。新時代のレビューとは何か、さまざまな視点で分析します。
 ほかにも星組新トップ・紅ゆずるへの期待の小特集、今回から新たに執筆メンバーに加わってくださった宮本啓子さんのデビュー論考「宝塚に見る戦国武将」など、盛りだくさんな内容はまさにいまの宝塚をそのまま反映しています。
 そして今回の目玉の一つ、OGインタビューは元星組の北翔海莉。退団後初めて『宝塚イズム』のインタビューに応じてくれました。宝塚ファンならずとも読み応え十分。『宝塚イズム35』を全国有名書店でぜひお買い求めください!

 

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