第37回 コロナ禍からの脱却はいつ?

薮下哲司(映画・演劇評論家)

 宝塚歌劇の最新の状況と未来を展望する『宝塚イズム44』が1月17日に発売されるとほぼ同時に、オミクロン株が猛威を振るい始め、宝塚歌劇は東京の各劇場で初日の延期、公演中止が相次ぎまたまた大変な事態に陥っています。
 ことの起こりは1月10日開幕のはずだった東京国際フォーラムでの雪組公演『ODYSSEY――The Age of Discovery』(作・演出:野口幸作)が初日直前になって公演中止。当初は初日の延期と発表されたのですが、その後全公演中止が決定。東京宝塚劇場の花組公演『元禄バロックロック』(作・演出:谷貴矢)、『The Fascination!』(作・演出:中村一徳)も8日から29日まで公演中止になりました。
 本拠地の宝塚大劇場は当初は感染者が出ず、通常公演が続いていましたが1月下旬から雲行きが怪しくなり、2月1日からの宝塚バウホールの星組公演『ザ・ジェントル・ライアー――英国的、紳士と淑女のゲーム』(脚本・演出:田渕大輔)が全公演中止、名古屋御園座の星組公演『王家に捧ぐ歌』(脚本・演出:木村信司)が初日の延期、宝塚大劇場の宙組公演『NEVER SAY GOODBYE』(作・演出:小池修一郎)も初日が延期されるなど、中止、延期が続いています。宝塚音楽学校にも感染が広がり恒例の本科生による文化祭の開催が危ぶまれている状態です。
 感染防止には万全の態勢を取って慎重に公演を続けてきたにもかかわらず、感染力の強さにはかなわなかったということでしょうか。いずれにしても、なんとかこの事態を早く収拾して通常の公演形態に戻ってもらいたいものです。
 さて『宝塚イズム44』の特集テーマは「2022年各組新体制への期待」でした。花、月、雪、星、宙の5組とも何らかの形でスターの陣容が変化し、新たな布陣で臨む2022年を占うというのが骨子でした。
 しかし、原稿締め切り時点と発売時のタイムラグはいかんともしがたく、1月11日に月組の三番手スター、暁千星が星組に組替えになることが発表され、月組と星組の今後が大きく変化してしまうことになりました。
 月組は月城かなと・海乃美月の新トップコンビに二番手が鳳月杏という形が決まっていますが、三番手だった暁が抜けることによって風間柚乃がその位置に取って代わることになるのはほぼ明確となりました。一方、星組は二番手だった愛月ひかる退団後、礼真琴・舞空瞳のトップコンビに続く二番手スターが不在のまま年を越し、順当ならば瀬央ゆりあの二番手昇格かと思われていた矢先の暁の組替えということになりました。
 暁と瀬央は、入団年でいうと暁が98期生、瀬央は95期ですから暁のほうが下級生です。しかし、暁は月組最後の公演として梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ公演『ブエノスアイレスの風』(作・演出:正塚晴彦)が決まっていて、瀬央が主演するはずだったバウホール公演とはランクが違うのです。当分はダブル二番手のような感じで推移するのではないかと思われますが、暁を二番手にという劇団の思惑がうかがえる人事です。
 暁の組替えは『ブエノスアイレスの風』公演後の5月27日付。その時期、星組は宝塚大劇場公演中。次の東京公演には間に合わないという非常に中途半端な時期になり、暁が星組に合流できるのは、2023年最初の大劇場公演の前の外箱公演からということになりそうです。いずれにしても、4月から始まる星組公演『めぐり会いは再び next generation――真夜中の依頼人』(作・演出:小柳奈穂子)、『Gran Cantante!!』(作・演出:藤井大介)で瀬央が二番手として羽を背負うかどうか気になるところです。
 一方、2月に入って雪組の将来を担う位置にいた綾凰華が6月で退団というニュースが飛び込んできました。雪組は彩風咲奈・朝月希和が新トップコンビに就任したばかりで二番手は朝美絢ですが、三番手が流動的。ここへきて宙組から和希そらが組替えしたことにより、和希が三番手的な立場になりそうです。綾が劇団に退団の意思を伝えたことによって和希の組替えが実現したという見方もありますが、星組から組替えで雪組に配属、期待のスターだっただけに、ここへきての退団は残念というほかありません。
 ただ、退団後のスターの受け皿として設立されたタカラヅカ・ライブ・ネクストの活動がここへきて活発になり始め、元花組の瀬戸かずやの退団後初ディナーショーに続いてコンサートも主催、自主開催では到底望めない豪華なゲスト陣でバックアップするなど、梅田芸術劇場とともに系列ならではのパワーをいかんなく発揮しています。
 OGの活躍といえば元花組の明日海りおと元雪組の望海風斗、人気・実力とも近年抜きんでたトップスター2人が女性役で競演する『ガイズ&ドールズ』が6、7月に東宝の手によって上演されることが発表されています。2人の競演はファンにとっては朗報ではあり、それはそれで楽しみな公演ではあるのですが、同時にこれがなぜ男役だった宝塚時代になかったのかという思いが募りました。退団後に2人が女性役で共演しても、男役時代のファンにとっては何の意味もないのではないでしょうか。最近は『ベルサイユのばら』の役替わり公演くらいしか組を超えての共演がなくなりましたが、かつては合同公演のようなもっとフレキシブルな公演形態があり、組を超えた豪華顔合わせが話題を呼んでいました。退団後に夢の顔合わせが実現する前に在団中にそんなファンサービスがあってもいいのでは――。『ガイズ&ドールズ』公演の発表を聞いて、そんな思いに駆られたのでした。
 取り留めもなく書いているうちに、そろそろ紙数も尽きたようです。『宝塚イズム45』は7月1日の発行の予定ですが、それまでには現在の状況がドラスティックに変化していることを祈ってやみません。

 

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