チームスポーツとしての共著――『幻の東京オリンピックとその時代――戦時期のスポーツ・都市・身体』を刊行して

坂上康博

 12人で取り組んできた共著『幻の東京オリンピックとその時代――戦時期のスポーツ・都市・身体』が出版された。予定よりも1年ほど遅れてしまったが、デッドラインと定めてきた「2016年のオリンピックの開催地が決定する10月のIOC総会」にはギリギリ間に合った。このことがまずうれしい!
  石原慎太郎東京都知事を先頭に展開されてきた東京オリンピックの招致運動も、そこでひとまず決着がつくことになるが、なんとしてもその前に本書を出したかった。そこにこだわったのは、現在進行中の東京オリンピックをめぐる議論に“参戦”したいという強い思いがあったからだが、とはいえ本書は“緊急提言”を携えた際物とは違う。現実の動向をにらみながら、そこからは一定の距離を置き、歴史的な事実を丹念に追究した歴史研究の書である。
  そんな本を12人全員で、最後まで誰一人ドロップアウトせずに書き上げることが、できたことがこれまたうれしい。そこには単著の完成とはひと味もふた味もちがう特別の喜びがある。それは、力を合わせてゴールに向かうという、チームスポーツの醍醐味に似ている。サッカーに例えれば、絶妙なパスやアイコンタクト、チームメイトによる励ましなど、そんなシーンがたくさんあった。そしてスポーツ社会学、スポーツ史、日本近・現代史、デザイン史といった専門領域(ポジション)が異なる個性的なメンバーだからこそできた絶妙なコンビネーション。いまは出版を終えての安堵感とともに、このチームでの活動がこれで終わるという何ともいえないさみしさが同時に込み上げてくる。
  さて、本書は当初、「学生や一般読者がすんなりと読み進められるよう質は落とさず、しかし文章は平明に」を方針として掲げ、つまり研究書と一般書の中間的なもの、文章も価格もそのようなものを目指した。文章については妥協せずにこの方針を最後まで貫いたつもりだが、価格に関しては、残念ながら4,200円(税込み)という一般書とは言いがたいものになってしまった。
  全部で12章、計452ページ、写真が143点、図表が40点というボリュームなので、むしろこの価格で出せたこと自体が奇跡的だと思うが、分量の膨張をコントロールできなかった責任は、やはり編者が負わなければならないだろう。分量オーバーの原稿に対しては何度か削ってもらったが、時間がたつとまた膨れ上がる。新しい史実や史料の発見があって、それらがどんどん付け加わってくるからだが、それらについては「もったいない」という気持ちがはたらいてしまい、なかなか削れない。
  そんな葛藤を伴いながら刈り込み作業を重ねたが、それでも当初予定の2倍近くの分量になってしまった。さてどうするか? 2冊に分けるという案も検討したが、せっかくの一体感が壊れる。悩みに悩んで、最後は「写真と図表を削れるだけ削ってそれで出版」ということになった。
  だから本書は、2冊分の内容をもち、しかも100点を超える写真と多くの図表を掲載した、つまりヴィジュアル的にも資料的にも充実したものとなっていて、このような中味からすれば決して高い価格ではない――そんなふうに読者のみなさんが思ってくれたらうれしいのだが、さて結果はいかに?