さまざまなオペラに出合うために――『オペラ鑑賞講座 超入門』を書いて

神木勇介

 オペラを楽しむためのちょっとした「コツ」をご存じですか? オペラに興味をもった人がはじめの一歩を踏み出すとき、その案内役となるように、本書『オペラ鑑賞講座 超入門』ではその「コツ」を書きました。

 オペラに興味をもつ……このことだけでも、一般的に考えれば珍しいことではないかと思います。オペラはクラシック音楽の一つのジャンルであるわけですが、交響曲やピアノ曲に比べて、親しみにくいものかもしれません。一見すると、時代錯誤の舞台衣装を身にまとった体格のいい男女が、オーバーな演技をしながら大声を発している──現実離れしているこの世界に、即座に拒否反応を示す人もいるのではないでしょうか。

 でも、例えば「自分の好きな作曲家がオペラも書いている」「好きなメロディーがオペラからの抜粋だった」「豪華なオペラハウスの写真を見た」など理由はどうであれ、まずは興味をもつところまできたとしましょう。そこからオペラの世界をのぞいてみるわけですが、これが少々やっかいかもしれません。オペラにはいろいろな種類があって、たまたま出合ったオペラが自分の好みに合っているとはかぎらないからです。

 実は私もそうでした。音楽大学を目指して声楽のレッスンを受けていた私は、その先に「オペラ」があることを見据えていましたが、まったく知識がなかったため、とりあえず何でもいいからオペラを聴いてみることにしました。何も考えずに、ある有名なオペラ作品を鑑賞したのです。でも、まったく楽しめませんでした。当時の自分には合わなかったのですね。演奏時間は長いし、どこが聴きどころかもわからない。これは私とは異質の世界なんだと勝手に自分に言い聞かせて、それ以降は歌曲や声楽曲に関心が集中しました。

 それでも結局、私はオペラが好きになりました。なぜなら、その後さまざまな機会で、オペラの「多面的」な魅力にふれることができたからです。ヴェルディのオペラ・アリアを歌ったときは、シンプルな音楽なのにこんなに劇的な表現が可能なのかと驚きました。もちろんプッチーニのオペラで、主役のソプラノとテノールが歌うアリアにも感動しました。モーツァルトのオペラには親しみやすい重唱が多くあり、仲間とアンサンブルを楽しみました。初めて接したワーグナーのオペラは、パトリス・シェロー演出の『ニーベルングの指環』でしたが、とにかく長かったという感想をもったものの、「演出」に興味をもちました。リヒャルト・ゲオルク・シュトラウスのオペラの多彩な音楽表現に気がつくと、オーケストラの演奏を楽しめるようになりました。

 同じオペラでも、作曲された時代や場所によってまったく別物のように印象が異なります。また、オペラは、「声」「歌」「音楽」「演出」などのさまざまな観点から楽しむことができます。こうしたもろもろのことを知ったうえでオペラを鑑賞していけば、必ずや自分に合ったオペラが見つかるはずです。

 オペラについて「声」「歌」「音楽」「演出」などのあらゆる側面を順序立てて知ることができるように、本書『オペラ鑑賞講座 超入門』では全体を12の講座に分け、オペラとは何かというところから名作オペラの楽しみ方まで、できるだけ丁寧に解説しました。本書を読めば、オペラを楽しむための「コツ」をつかむことができるのではないかと思います。