「戦争の百年」に翻弄されてきた私たちの歴史を、新たな視点で見つめ直したい ――『写真・ポスターから学ぶ戦争の百年――二十世紀初頭から現在まで』を書いて

鳥飼行博

 8月はたくさんの戦争関連書が出版されますが、本書『写真・ポスターから学ぶ戦争の百年』が、その1冊として書店に並べられることはとても光栄です。青弓社から企画を依頼されたのは、もう2年以上も前になります。刊行が遅れたのは多数のポスターや写真を集めて、整理したり、それに適った説明を加えようとしたためです。さらに、多くの図版を前に取捨選択に迷い、従来専門的な学術書を書いてきたために文章表現がカタくなりすぎ、何度もご指導いただきながらリライトしました。引用や原典にもこだわり、注も煩雑になりがちだったので、これは大幅に簡略しました。編集を担当していただいた矢野未知生氏からは、読みやすくわかりやすい表現・文章に直すようコメントを受け、とてもいい経験になりました。8月の刊行に間に合わせるために、タイ出張中にメールで校正することもしました。
  リライトを進めるうちに文章が長くなり、図版が増えて、368ページと当初の予定より大幅に増えてしまい、収拾がつかなくなりました。予定量を超えているので大幅に削減しなければいけないと心配していましたが、矢野氏のご好意で、そのまま出版することができ、うれしく思っています。
  本書は長らく携わってきた平和・人権研究の一環ですが、これまで書き溜めたものに加えて、新たに調べ直しをしました。写真・ポスターを調べていくと、同じものであっても提供機関や出版物によって異なる解説を加えていて、撮影対象や作成時期などの違いもあります。たった1枚のポスターでも、その作成にまつわる資料を入手するのは大変でした。ポスター自体には、作者、発行機関、発行時期の情報は必ずしも書き込まれていないのです。写真にいたっては、撮影時期や撮影者が不明なものがほとんどです。
  けれども、諸外国の公的機関やNPOは、戦争にまつわるポスターや写真など、歴史的資料の収集・整理だけではなく、その公開・利用について積極的に取り組んでいます。日本でも次第に図書館・博物館・大学などを中心に資料収集・公開が進んでいます。本書で多数の写真・ポスターを利用できたのも、そのような機関・NPOのおかげです。お世話になった方々に改めて感謝を申し上げますとともに、これからも、情報収集に利用させていただきたく存じます。
「戦争の百年」の著作を書き進めたのは、従来の研究成果を公表するだけではなく、心のうちにあるいのちへの希求を大きな戦争の流れのなかから拾い出して、具体的に表現してみたかったからです。百年という長期間を扱うので、1つの事象を論文風に書くだけの分量はありませんし、また従来の見解を要領よくまとめた20世紀の戦争通史を目指してもこれまでに出版されたものと変わらなくなってしまいます。そこで、百年間の写真・ポスターを1冊にまとめて掲載し、新聞記事や公式報告を絡めることで、客観的に戦争の百年を理解できるのではないかと考えました。戦争通史に、戦闘経過、兵器解説、戦争経済、人々の個人史をつなぎ合わせて、「戦争の百年」に翻弄されてきた私たちの歴史を新たな視点で見つめ直すことを目指してみようと思いました。
  できあがった本が届いた2日後、2008年8月24日(日曜日)の「毎日新聞」の「今週の本棚」に「図版で解説する百年間の戦争」として本書が取り上げられ、「「戦争の世紀」といわれる20世紀から現在までの近現代史を、写真やポスター、新聞記事、公文書など225点でたどっている」と掲載されました。本書を手にした方がいらっしゃるかと思うと、うれしいと同時に、緊張しました。
  書店店頭で本書を見かけたら、お手にとってごらんいただければ幸いです。