第33回 飯守のブラームス

 飯守泰次郎指揮、関西フィルハーモニー管弦楽団による『ブラームス 交響曲全集』(フォンテック、FOCD9476/8)が発売された。特に何も考えずに、まず「第1番」の頭を鳴らしてみた。すると、響きもたっぷりしていて透明感もある。「かなりいい音だ」と思った。ならば、とほかの3曲も同じく頭の部分をかけてみると、同傾向の音がする。録音機材でも入れ替えたのかと思って帯やら中の解説を見たら、これは最近には珍しくライブではなく、完全にセッションで録ったものだという。収録は2009年4月(「第1番」「第2番」)、10年3月(「第3番」「第4番」)で、場所は大阪のいずみホール。
  私はこのホールには一度しか行ったことがないが、響きのいい中ホール(座席は約800席)だったと記憶する。その響きを十分に生かしたのが今回の全集なのだが、私は猛暑にもかかわらず、ある日の午後に「第4番」→「第2番」→「第3番」→「第1番」という順序で、一気に聴き通した。
  出来のよさにあえて順位を付けるならば、「第1番」、「第2番」、「第4番」、「第3番」となるだろうか。たとえば第1番の冒頭部分、ここは数あるCDのなかでもすごく立派な部類に入る。悠然と堂々と鳴り響き、ティンパニもなかなか雄弁。ブラインド・テストをすれば、「ベーム? ザンデルリンク? クレンペラー? コンヴィチュニー?」なんて声が出てくる可能性がある。主部も実に余裕があり、展開部ではシューリヒトのようにテンポを遅くするが、ここも豊かな響きとあいまって、非常に効果的である。続いては第4楽章に感銘を受けた。たとえば、例の有名な主題が出てくるところ、ここも大変に質のいい音で鳴っている。
「第2番」は第1楽章がよかった。全くの正攻法ながら、弦楽器の響きもきれいだし、管楽器のソロもホールの中にきれいにこだましている。また、第2楽章のすっきりと、やや冷たい感触の雰囲気もよかった。この飯守の「第2番」は、演奏・録音ともに最近発売された小澤征爾指揮、サイトウ・キネン・オーケストラ盤(『ブラームス:交響曲第2番、ラヴェル:道化師の朝の歌、シェエラザード』ユニバーサルクラシック、UCGD-9011/2)をずっと上回っていると思う。
  第4番では第1楽章が個性的だった。ブラームス晩年の孤独を切々と訴えかけるように繊細に歌っているが、決して過度になっていないところがいい。第3楽章では積極的にティンパニを活躍させているのが特徴的だった。
  今後のためにも、いちおう問題点も指摘しておこう。たとえば「第3番」の第3楽章のように、オーケストラ自体にもう少し練り込んだ音が出ればいっそうよかったと思う個所がいくつかある。また、指揮の方では「第1番」の第2楽章や「第3番」の第1楽章のように、いささか無難すぎると感じるところもあった。
  とはいえ、全体的にはすばらしい瞬間がたくさんあり、今後の展開に期待がもてる。いずれにせよ、あえてセッションで臨んだ結果がきちんと出ている点は大いに評価したい。

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