「ドラムで工作もあり」です――『まるごとドラムの本』を書いて

市川宇一郎

 タイトルからして『まるごとドラムの本』なのだから、ドラムにまつわるいろいろな話を盛り込んで、だれにでも面白く読んでもらおうと企図して書いたが、いざできあがってみると、「アレも書いておけばよかった、コレも入れておけばよかった……」と思うことしきりである。
 そのひとつに、ドラムの改造・修理がある。ドラムは叩くだけでなく、イジって遊べる楽器でもあるのだ。これは工作や機械イジりが好きな人にとってはたまらない。しかも、「木工」も「金工」も両方楽しめる。
 たとえば、ドラムのボディーである。その多くは木製の合板(プライ・ウッド)でつくられている。これは数ミリの薄い板を何層にも重ね、接着剤を塗り、圧着して成形するが、古楽器だと、経年劣化のため層が剥がれることがまれにある。修理は、剥がれたわずかなスキマに接着剤を丹念に塗り込み、クランプで圧着する。その際、剥がれの状態によって、木工用ボンドを使うか、エボキシ系の接着剤にするか、あるいは瞬間接着剤にするかを判断するのだが、これがなかなかむずかしい。層が剥がれたボディー内部の状態がどうなっているのかわからないから、最終的には一か八かの選択を迫られる。ホームセンターの接着剤コーナーをウロウロ歩き回り、どれにしようかと悩みに悩む。しかし、これもまた楽しいひとときなのだ。
 器用なドラマーのなかには、ボディーのエッジ角度やスナッピーのえぐり底(スネア・ベッド)を削り直して、好みの音に微調整する人もいる。一般に、エッジの角度が鋭くなるにつれて反応がいい鋭角な音になり、反対に鈍角の丸いエッジになるにつれて、反応は鈍いが、ドシッとした太い音になる。しかし、望みどおりの音になるかどうかは、やってみなければわからない。だからこそ、うまくいったときの喜びは大きいのだ。
 塗装を楽しむ人も少なくない。ボディーの塗装の剥がれた部分に、同じ色の塗料を探してきてきれいに塗り直し、表面を磨き上げ、ニンマリしている人もいる。これは、愛車のキズをていねいに修理するカー・マニアの姿と重なり合う。
「色に飽きた」と言って、ボディーのカバーリングを張り替える人もいる。もともと張られているセルロイドや塩化ビニールのカバーリングをきれいに剥がし、新しいのに張り替えるのだが、前もってボディーに取り付けられている金属パーツをすべて取り外さなければならないから、けっこう大変な作業になる。
 それで思い出したが、ボディーから取り外した部品(ラグの類)をネジ留めするときは、決して強く締めてはいけない。スプリング・ワッシャーがつぶれたところから、ほんの少し締める程度でいい。演奏中、緩まないようにと、力まかせにギュッと締めると、ネジ山を破損させるだけでなく、音の響きを損ねてしまうことになる。なんと、鳴らなくなってしまうのだ。こういったことは、補修のプロなら周知の事実だが、一般にはほとんど知られていない。
 さて、ネジを壊したり、なくしたりしたら、どうするか。最近の製品なら、楽器店で手軽に入手できるが、ヴィンテージ・ドラムのネジだと、まず店にも用意がない。取り寄せもできない。そこで「ネジ屋」を探し歩くのだが、小さなインチ・ネジやナットはどこにでもあるものではない。筆者の経験では、秋葉原のイリベ螺子店の在庫がとにかく豊富だ。こんなネジはないだろうなというものまで、ちゃんともっている。先日も、「ユニファイ仕様の細目(さいめ)インチ・ネジ」でお世話になった。たった数個のネジでも、いやな顔もせず親切に対応してくれる。秋葉原ならではの、品揃えがいい、ありがたい店である。
 本書の巻末にはみなさんに紹介しておきたいロックとジャズのドラマーを掲載したが、日本人ドラマーを紹介しなかったのは残念だ。とりわけ1970年代は、ロック畑もジャズ畑も個性的な活動をし、あとに続く者に道を切り開いてくれたドラマーが多かった。そういったすぐれた先達の業績を正当に評価し、その名を活字に残しておくのは、あとに続く私たちの責任だと思っている。
 とまぁ、話は尽きないが、キリがないので、このへんでやめておく。あとは、ぜひ本編でお楽しみください。