第30回 新潟へ行くの巻

 先週の7月8日から11日まで新潟を初めて訪れた。最初の予定は2泊だったが、8日木曜日の夜に立川志の輔の公演があったので、それに合わせて1日余計に泊まったわけである。志の輔はたっぷり三席やってくれ、特に最後の「柳田格之進」は絶品だった。このとき、ちょっと面白いことがあった。「携帯電話をお切りください、録音録画はご遠慮ください」という例の開演前のアナウンスである。「座席の上に立ち上がったり、あるいは舞台に駆け寄ったりしますと、公演が中断、もしくは中止になることがあります」と続いて流れた。私は「このアナウンスは落語の前には変ですよね」なんて言っていたのだが、そのアナウンスを舞台に出てきた志の輔が早速ネタに使っていた。「いやあ、私も落語を長くやっておりますが、座席の上に立ち上がった人なんか見たことはないですねえ。舞台に駆け寄ってくる人、これもありませんね。私なんか舞台に人が近づいてきたら、何かくれるんじゃないかと思わず期待しちゃいますけど」なんて言っていた。
  8日午後に新潟駅に到着し、すぐに案内されたのが朱鷺メッセ。ここの展望室で新潟市内を一望した。曇り空だったので佐渡はかすかにぼんやりと見えた程度だったが、次回はその佐渡に行ってみたいと思う。市内の中心を流れる信濃川、それにかかるいくつかの大きな橋。この橋も道路も幅広くゆったりとしているが、これはどうやら田中角栄の遺産のようである。その信濃川の悠然とした流れと幅広い道路、これらが街全体に独特の情緒を醸し出しているような気がする。古町マンガストリートで『ドカベン』(作者の水島新司は新潟出身)に出てくる里中、山田、殿馬、岩鬼の銅像を見て、その予想以上の大きさに驚いたが、心から感動したのは郊外にあった豪農の館(北方文化博物館http://hoppou-bunka.com/)である。もしも新潟へ行く機会があれば、ここはぜひ立ち寄るといい。また、あの横田めぐみさんが拉致されたと言われる個所も通過した。一瞬ではあるが、心が痛んだ。
  その豪農の館と同じく印象的だったのは、初日に志の輔を聞いた新潟県民会館と、その隣にあるりゅーとぴあという施設(コンサートホール、能楽堂、練習室など)とその周辺である。この一帯は人工の丘だが、公園としてきちんと整備されていて、たいへんに心地いい。しかも、すぐそばにはすばらしい洋風建築の県政記念館(重要文化財、現存する最古の県会議事堂)や、まことに風情あふれる燕喜館(重要文化財、豪商の館)などもあり、環境としては理想的だろう。
  10日土曜日の夕方、りゅーとぴあで東京交響楽団の公演を聴いた。指揮はユベール・スダーン、曲目はブルックナーの『交響曲第9番』だが、この日は「テ・デウム」も加えた4楽章版である。「テ・デウム」付きはめったにない機会だし、演奏も非常によく、十分に楽しめた。それ以上に驚いたのはコンサートホールの音響のすばらしさである。ウェブサイトによると、座席数は約1,900。そもそもホールは最初に足を踏み入れた瞬間に、いい音がしそうか否かの第一印象を抱く。そして、これがだいたい当たるのである。ここはむろん、「良さそうだ」と思い浮かんだ。私は3階右の1列めを買ってみたが、音は十分すぎるくらい届く。バランスもいいし、残響も適度であり、透明感も申し分ない。地元の人によると、2階席はもっといいとのことで、次回はぜひそこを試してみようと思う。1度聴いただけで即断は危険ではあるが、東京にあるいくつかのホールよりもずっといいのではないか。それに周囲の環境も考慮すれば、まことにうらやましい限りである。
  今回の滞在中、新潟県民エフエムの番組を収録した。放送は7月17日(土)、24日(土)の2日間で、時間はともに11時45分から12時までだ。聴ける環境にある方は、ぜひ聴いてみてほしい。
  最後に、今回の新潟滞在で以下の方々に特にお世話になりました。佐藤さん(CDショップ・コンチェルト)、K嬢(リッカルド・ムーティ・ファン/彼女はムーティではなく、ムーチーと呼ぶ)、田代さん+遠藤さん(新潟県民エフエム放送)。本当にいろいろとありがとうございました。

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