第9回 早霧・咲妃コンビを大特集! 内容充実の『宝塚イズム35』

薮下哲司(映画・演劇評論家。元スポーツニッポン新聞社特別委員、甲南女子大学非常勤講師)

『宝塚イズム35』が6月1日に発売されました。今回のメイン特集は、『幕末太陽傳(ルビ:ばくまつたいようでん)』東京宝塚劇場千秋楽の7月23日付で宝塚を卒業する雪組の人気トップコンビ、早霧せいなと咲妃みゆのサヨナラ特集です。
 この2人は、100周年後の2015年正月に『ルパン3世――王妃の首飾りを追え!』(雪組)で宝塚大劇場でのトップ披露を飾り、以来、退団公演までの全公演が前売りで完売という前代未聞の記録を作りました。宝塚の長い歴史のなかで、トップ在籍中の公演すべてが完売したのは初めてのことだといいます。100周年人気の余韻のなかで、話題性がある演目に恵まれたこともありますが、タカラジェンヌとしての資質に加えて、2人の舞台人としてのたゆまぬ努力のたまものが、この記録を生んだのだと思います。
 早霧の初取材のとき、宝塚音楽学校の受験のために初めて大阪に来たときの思い出を話してくれました。梅田から宝塚行きの阪急電車が8両連結だったことにびっくり。「佐世保では2両連結の電車しか見たことがなかったから、なんて都会なんだろう、と思った」というのです。好きで受験したとはいえ「こんなところで1人で生活できるのだろうか」と漠然と不安を感じたようです。遠い九州からたった1人で都会に出てきた少女の戸惑いが実感として迫り、強く印象に残っています。そんなか弱い少女が、18年後、こんな立派なトップスターになるとは誰が予想したでしょうか。
 2001年初舞台。戦時中のタカラジェンヌの苦難の歴史を描いた藤原紀香主演のテレビドラマ『愛と青春の宝塚――恋よりも生命よりも』(フジテレビ系、2002年)に、収録当時の研1生がエキストラ出演していて、同期の沙央くらまらとともに早霧の初々しい姿も見られます。当初は宙組に配属され、アイドル的な美貌とダンスの切れ味で注目されましたが、背の高い男役が多かった宙組にあって、どちらかというと埋没ぎみでした。研6のとき、和央ようか・花總まりの退団公演『NEVER SAY GOODBYE』(宙組、2006年)新人公演で初主演、ようやくエンジンがかかりました。
 その後雪組に組替えとなり、このあたりから劇団は、早霧をトップ候補として全面的に押し出していきます。しかし、このころは早霧のやる気と役の大きさがまだアンバランスで、歌唱力にも課題があり、かなり無理をしている感じがあって、見ているほうがつらかったこともありました。壮一帆トップ時代の『Shall we ダンス?』(雪組、2013―14年)の女役への挑戦から、それが抜けるように見事になくなり、あとはもうご存じのとおりです。
 サヨナラ公演の『幕末太陽傳』は、宝塚大劇場で大好評裏に上演を終え、6月16日から東京宝塚劇場での公演が始まります。幕末の品川宿を舞台に、江戸落語の『居残り佐平次』をメインに『品川心中』『三枚起請』『お見立て』といった噺を随所にちりばめた人情喜劇。1957年制作の日活映画『幕末太陽傳』(監督:川島雄三)を、小柳奈穂子が宝塚風のミュージカル・コメディとして巧みにアレンジしました。早霧が演じるのは、映画でフランキー堺が演じた佐平次。労咳(結核)を病み、死に場所を求めて品川にやってきた口八丁手八丁の佐平次が、幕末の品川に生きるバイタリティーあふれる人々の姿を見て再び生きる勇気をもらうまでを、早霧は、明るさのなかにも陰影をつけて、人間賛歌を謳い上げることに成功しています。『ルパン3世』や『るろうに剣心』(雪組、2016年)などのアニメキャラクターを宝塚の舞台で作り込んだ貴重な経験が、この舞台で見事に開花したといっていいでしょう。100周年後の新たな宝塚の男役像を築き上げてのラストステージ、『宝塚イズム』の執筆者たちも熱いメッセージを寄せてくれました。
 一方、相手役の咲妃みゆは、2010年初舞台の96期生。月組に配属後、期待の娘役として早くから大役に起用され、清純な娘役から大人の役まで演じるたびに大きく成長してきた、天性の素質をもつ宝塚の娘役の枠を超えた舞台人です。その類いまれなる歌唱力で芝居だけでなくショーでも活躍。昨年(2016年)の『Greatest HITS!』(雪組)では、マドンナの難曲「マテリアルガール」を見事に歌いこなして観客を驚かせました。サヨナラ公演の『幕末太陽傳』では、吉原から品川に流れ着き、お客をえり好みするうちに、後輩のこはるに板頭(トップ)の座を奪われてしまう相模屋の女郎おそめ役。宝塚のトップ娘役のラストステージとは思えない役どころですが、咲妃らしく、そこは品よく、はかなげに、しかし芯がある演技でラストを飾っています。早霧、咲妃という花も実もある2人だからこそ実現したファイナルステージになったのではないでしょうか。そんな2人に対する特集原稿は、退団を惜しむ声で埋め尽くされました。宝塚史上希有なトップコンビの退団に対する惜別の文章をごらんください。
 そして、早霧と咲妃については退団後の活躍も期待したいと思います。2人とも作品と運に恵まれれば、女優として大成できる可能性を十分秘めていると思います。宝塚は、月丘夢路、乙羽信子、淡島千景、新珠三千代、八千草薫、有馬稲子と、戦後すぐの映画黄金時代に娘役から多くの女優を輩出しています。このあたりの人の生の舞台はさすがに観ていませんが、ぎりぎり朝丘雪路や浜木綿子、扇千景そして淀かほるあたりはかすかに記憶があります。『風と共に去りぬ』が1966年に東宝で初めて舞台化されたとき、スカーレットが有馬稲子、メラニーを淀かほる、ベル・ワットリングは浜木綿子と、主要キャストをすべて宝塚出身女優が占め、大きな話題になったものです。
 その『風と共に去りぬ』ですが、宝塚で初演されてから今年で40年になります。今年は、宝塚が初めてレビュー『モン・パリ――吾が巴里よ』を上演して90年という節目の年にもあたり、宝塚的にはそちらのほうにスポットが当たりがちですが、ポスト『ベルサイユのばら』(1974年初演)の急先鋒として1977年に初演され大ヒット、宝塚の現在に至る隆盛の一翼を担った作品として忘れるわけにはいきません。その月組初演のスカーレットは順みつきでしたが、続演した星組のスカーレットに抜擢されたのが遥くらら。彼女は在団中に2度スカーレットを演じ、退団公演になった1984年の雪組公演でのスカーレットは歴代最高といわれる名演技でした。元毎日放送記者の宮田達夫さんがその当時の思い出をつづってくださいました。
 もちろん、レビュー90周年をことほいだ「宝塚レビューの魅力」についての論考も特集します。もともとは「お伽歌劇」から始まった宝塚がレビューを取り入れたことによって、歌劇団のコンセプトが大きく変貌しました。そのレビュー自体も、時代とともに変化する観客の嗜好に合わせて、大きく様変わりしてきています。新時代のレビューとは何か、さまざまな視点で分析します。
 ほかにも星組新トップ・紅ゆずるへの期待の小特集、今回から新たに執筆メンバーに加わってくださった宮本啓子さんのデビュー論考「宝塚に見る戦国武将」など、盛りだくさんな内容はまさにいまの宝塚をそのまま反映しています。
 そして今回の目玉の一つ、OGインタビューは元星組の北翔海莉。退団後初めて『宝塚イズム』のインタビューに応じてくれました。宝塚ファンならずとも読み応え十分。『宝塚イズム35』を全国有名書店でぜひお買い求めください!

 

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第8回 娘役としての完成形――実咲凜音に寄せて

鶴岡英理子(演劇ライター。著書に『宝塚のシルエット』〔青弓社〕ほか)

『宝塚イズム』の共同編著者である薮下哲司さんと、毎月交代で執筆しているこの「『宝塚イズム』マンスリーニュース」ですが、4月と10月にはお休みをいただいています。といいますのも、この2カ月は6月と12月に刊行している『宝塚イズム』の新刊制作が最も佳境に入る時期なのです。雑誌、新聞、さらにウェブニュースと、情報のサイクルが早いメディアから考えると「2カ月も前に制作?」と思われるかもしれませんが、これは書籍である『宝塚イズム』にはどうしても必要なスパンで、執筆メンバーから集まる原稿の精査、校正、OG公演の舞台写真貸与の依頼、対談、さらに自身の担当原稿の執筆と、さまざまな作業に追われる日々が続きます。特に、ニュースの即時性という意味ではほかのメディアに追いつけない書籍であるからこそ、宝塚の半年間をじっくりと検証し、きちんと書き留め、残していくことを最大のテーマに制作に当たっています。
 そんな思いを込めた『宝塚イズム35』、「平成のゴールデンコンビ」と謳われた、早霧せいな&咲妃みゆのさよなら特集を柱とした新刊が、もうすぐお目見えを果たします。その新刊については次回で薮下さんが存分に語ってくださるので、そちらをぜひ楽しみにお待ちいただくとして、私は去る4月30日、『王妃の館――Chateau de la Reine』『VIVA! FESTA!』(宙組)東京宝塚劇場公演千秋楽をもって宝塚歌劇団を退団した宙組トップ娘役・実咲凜音について書き記したいと思います。
 実咲凜音は、2009年『Amour それは…』(宙組)で初舞台を踏んだ95期生。現在の宝塚で最も勢いがある期といっても過言ではないほど多くのスターが輩出している95期ですが、そのなかでもいちばん早く名前が出てきたのが、娘役の実咲でした。
 何しろ花組に配属になったばかりの研究科1年生で、ショー『EXCITER!!』の「ファッション革命」のシーンで当時花組の男役ホープだった朝夏まなとと組んで銀橋を渡る大役に抜擢されたのですから、そのインパクトは大変なものでした。のちに実咲が朝夏と宙組トップコンビになろうとは、もちろん誰一人予想することはできませんでしたし、実咲のさよなら特集の「歌劇」2017年4月号(宝塚クリエイティブアーツ)の朝夏からの「送る言葉」によれば、この配役発表を見た朝夏が「私と組む、実咲凜音って誰だ?」と思ったということですから、未知数も未知数、いわば海のものとも山のものともわからない時点での抜擢だったわけです。でも、このとき舞台を観ていた観客の多くが「朝夏まなとと組んでいる、あの娘役は誰だ?」と公演パンフレットをひっくり返し、「実咲凜音」の名前を覚えたのもまた間違いないことで、この大きな賭けが、実咲をあれよあれよという間にスターダムに押し上げていきます。
 翌年2010年、研2で『麗しのサブリナ』(花組)のサブリナ・フェアチャイルド役で新人公演初ヒロイン。同じ年に、朝夏主演のバウホール公演『CODE HERO/コード・ヒーロー』(花組)でバウホール初ヒロイン、そしてこの作品は東上もしたので、早くも東京でのヒロインデビューも果たします。さらに11年には『ファントム』新人公演(花組)で歌姫クリスティーヌ・ダーエを演じ、抜群の歌唱力を披露。ソロナンバーで客席からの拍手がしばし鳴りやまなかったほどで、この一夜のヒロインの見事な歌いっぷりの評判は、宝塚世界を瞬く間に駆け回ったものでした。特に実咲は、どちらかというと明るくサバサバとした現代的な個性をもった新しいタイプの娘役として認識されていたので、こうしたクラシカルな役柄をしっとりと演じられることがわかったのも、豊かな歌唱力とともに大きな収穫になり、ここからの実咲の日々は、ただまっすぐに続くトップ娘役への階段を駆け上っているかのごとくでした。なんと花組に在籍した4年間でヒロインを演じた別箱公演3本すべてが東京にきているのですから、劇団の英才教育ここに極まれりといえるでしょう。
 その勢いのまま2012年、宙組に組替えして宙組6代目トップスター凰稀かなめの相手役としてトップ娘役に。実に意外なことですが、むしろここから実咲はヒロイン一直線ではない、さまざまな役に巡り合うことになります。トップ娘役披露だった『銀河英雄伝説@TAKARAZUKA』(宙組、2012年)は、長大な原作のほぼ第2巻までを舞台化していた関係上、凰稀が演じたラインハルト・フォン・ローエングラムと実咲のヒルデガルド・フォン・マリーンドルフの関係は、この舞台の幕が下りたあと、2人の間に新しいページが開いていくでしょう……を匂わせるにとどまるものになりました。また、『風と共に去りぬ』(宙組、2013年)ではメラニー・ハミルトン、『ベルサイユのばら――オスカル編』(宙組、2014年)ではロザリーと、コンビの凰稀の相手役ではない役柄に当たることも続きます。もちろん『うたかたの恋』(宙組、2013年)のマリー・ヴェッツェラなど、娘役なら誰しもが憧れるだろう大役を全国ツアーで務めてもいたものの、トップコンビががっぷり組む作品が本公演で特に少なかったことから、凰稀時代の実咲には、彼女本来の明るさが控えめに映る時期もあったものでした。
 けれども、この時期に蓄えていたもの、古典的な娘役に求められていた「男役に寄り添い、華を添える」という経験が、実咲の宝塚の娘役としての幅を大きく広げていたことが、凰稀退団後、宙組7代目トップスターに就任した朝夏と、まさに初恋の成就のように改めてコンビを組んだ日々のなかで明らかになっていきました。
 それは『王家に捧ぐ歌』(宙組、2015年)のアイーダや、『エリザベート――愛と死の輪舞』(宙組、2016年)のエリザベートという、宝塚の娘役の域をハッキリと超えて、実質的には物語の主人公である役柄を堂々と演じることもできれば、『メランコリック・ジゴロ』(宙組、2015年)のフェリシアや、実咲の退団公演になった『王妃の館』の桜井玲子といった、作品のなかで周りとの呼吸を計り、大切なピースとしての役割を果たす役どころも軽やかに演じられる強みとなって表れます。さらに彼女がすばらしかったのは、歌える娘役であるだけでなく踊れる娘役でもあったことで、ダンサートップスターである朝夏とのデュエットダンスは、宙組に大きな輝きをもたらしました。それらすべての経験が、縁の濃い朝夏との同志のような関係から生み出される小気味よいテンポ感はもちろん、轟悠と正面から渡り合った『双頭の鷲』(宙組、2016年)の全身全霊の演技につながったのです。思えば、劇団が初舞台まもなくから彼女に施した英才教育のすべてが実咲の実りになり、輝きになった、まさにパーフェクトな娘役でした。
 そんな彼女ですから、サヨナラショーで圧巻だった『エリザベート』の「私だけに」の文字どおりのショーストップの歌唱に負けず劣らず、『銀河英雄伝説@TAKARAZUKA』の「蒼氷色の瞳」のリリカルにどこまでも澄み切った歌声がいつまでも耳に残ったのも当然だったのでしょう。そこには役柄に瞬時に染まり、歌に合わせてほほ笑み方さえ変わる、娘役・実咲凜音の完成された姿が輝いていました。実に美しい娘役の、それは見事な旅立ちでした。
 ですから、実咲が早くも今年2017年の年末、市村正親と、宝塚の大先輩・鳳蘭が主演するミュージカル『屋根の上のヴァイオリン弾き』の長女ツァイテル役を演じることが発表されたのは、とてもうれしいニュースでした。ツァイテル役には大きなソロナンバーがなく、実咲の歌唱力が温存されるのはもったいないかぎりですが、市村、鳳という日本ミュージカル界の大スターとの共演から得るものは、計り知れないほど大きいはずです。宝塚の娘役として完成形をなしたと思える実咲だからこそ、女優としての第2章でどんな歩みを見せてくれるのかに期待が高まります。そんな実咲のこれからを楽しみにしながら、大輪の花を咲かせた彼女に、拍手とエールを送ります。たくさんのすばらしい舞台をありがとう! これからの道のりにも期待しています!

 

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第7回 朝夏退団発表、望海&真彩就任発表、動き続ける宝塚

薮下哲司(映画・演劇評論家。元スポーツニッポン新聞社特別委員、甲南女子大学非常勤講師)

 雪組トップコンビ早霧せいな・咲妃みゆの2017年7月退団に続いて、宙組トップスター朝夏まなとの11月退団が、3月7日に発表されました。そして、9日には雪組の次期トップコンビが望海風斗と真彩希帆に正式に決まり、8月の全国ツアーでのお披露目が発表されました。一方、宝塚大劇場では10日から星組新トップコンビのお披露目公演『THE SCARLET PIMPERNEL(ルビ:スカーレット ピンパーネル)』が華やかに開幕しました。相変わらず宝塚は目まぐるしく動いています。去る者がいれば新たなスターが誕生する。宝塚102年の歴史はこの繰り返しです。

 朝夏の退団は、昨年(2016年)末に発売された雑誌「an・an」(マガジンハウス)宝塚特集のトップスターの項に早霧とともに朝夏も入っていなかったことや、8月から11月にかけての宝塚大劇場と東京宝塚劇場での宙組公演が『神々の土地』と『クラシカル ビジュー』と発表されるのと同時に、その前の6月に梅田芸術劇場と文京シビックホールでおこなわれる朝夏のためのコンサート『A Motion(ルビ:エース モーション)』が発表されたことから、ある程度予想されたことではありました。それにしても、朝夏は2015年3月のお披露目公演『TOP HAT』(宙組)に続く『王家に捧ぐ歌』(宙組、2015年)で正式にトップに就任したばかりですから、まだ2年にもなりません。『エリザベート――愛と死の輪舞(ルビ:ロンド)』(宙組、2016年)に続く『王妃の館――Chateau de la Reine』(宙組、2017年)で新境地を開拓、これからじっくりと朝夏の男役を完成していってほしいと思っていた矢先でもあり、この時期での退団は残念です。いろいろな大人の事情があるのはわかりますが、ちょっと早い気がしてなりません。
 その朝夏ですが、退団会見に臨んで「卒業するその日まで進化し続けたい」と、彼女らしいさばさばとした潔さで退団の思いを吐露しました。退団の決断は昨年7・8月宝塚大劇場での『エリザベート』公演中のことだったと言い、「大作に挑戦したことで組が一つになり、自身も充実感を得た」ことが退団への思いを後押ししたとか。退団後のことは「まだ考えられない」というのは退団発表時のスターの常套句ですが、ここは、最後の公演にかける彼女の思いを汲んで、温かく見守りたいと思います。
 朝夏といえば佐賀県出身としては初めてのトップスター。トップ就任のときは佐賀県あげての応援ぶりで、公演初日に駆け付けたいという知事の意向を汲んで、広報担当が公務と重ならないようにスケジュールの調整に躍起になっていたことが懐かしく思い出されます。当の本人は、同じ佐賀県出身で1期上の夢乃聖夏(元・雪組)が1999年に宝塚音楽学校に合格したとき、地元の新聞に大きく報じられ、「佐賀県からでも宝塚を受けられるんだ」と知って一念発起、レッスンに励んで、翌2000年に受験、見事一発で合格しました。初舞台は香寿たつきがトップだった02年4月の星組公演『プラハの春』でしたから、今年で研16ということになります。
 当初は花組に配属され、長身で見栄えがすることから、新人公演などで早くから主役に抜擢されました。ダンスが得意で雰囲気がよく似ていることから、「ポスト和央ようか」と言われたものです。春野寿美礼、真飛聖、蘭寿とむと3人のトップスターのもとで男役を修業、春野時代には彩吹真央や蘭寿、真飛時代には大空祐飛、蘭寿時代には壮一帆、愛音羽麗と男役の層が厚い花組で、新人時代の勢いほどにはなかなか目が出ず、スランプの時期もありましたが、2012年、凰稀かなめのトップ就任と同時に宙組に組替え、一気に2番手に躍り出て、凰稀退団と同時に100周年後の新生宙組のトップスターに就任しました。
 朝夏がトップに就任した時点での各組のトップは、花組が明日海りお、月組が龍真咲、雪組が早霧せいな、星組が柚希礼音で、朝夏の長身とその凜としたたたずまいがなんとも新鮮でフレッシュな感じでした。課題だった歌唱力も、宙組に組替えになったころからレッスンの仕方を変えたのか、声の出し方を新たに習得したのか、高音低音ともに余裕がある歌い方に見違えるように変わり、よく伸びる歌声は『王家に捧ぐ歌』や『Shakespeare ――空に満つるは、尽きせぬ言の葉』(宙組、2016年)、そして『エリザベート』と、ダンサーであるとともに歌手・朝夏を強く印象づけることにもなりました。
 退団公演『神々の土地』は宝塚期待の作家・上田久美子の新作です。朝夏の最後にして代表作となるような傑作の誕生を期待したいと思います。

 そして、雪組の新トップスターに就任することが決まった望海は、もう誰もが彼女の起用に異論はない、待ちに待った花も実もある実力派です。特に花組の下級生時代に主演した『太王四神記』(花組、2009年)新人公演のときから定評があったその歌唱力は、その後もどんどん進化して、本公演以外でも『アル・カポネ――スカーフェイスに秘められた真実』(雪組、2015年)や『ドン・ジュアン』(雪組、2016年)などの主演作で観客を魅了しています。早霧・咲妃、そしての望海のゴールデントリオは、観客動員数でも5組中トップを誇っています。この雪組人気を望海1人で今後持続できるか、これも注目の的です。お披露目公演は高汐巴、若葉ひろみ時代の花組で上演され、その後も春野寿美礼や柚希礼音で再演されている柴田侑宏の名作『琥珀色の雨にぬれて』全国ツアーと発表されています。望海の個性にはぴったりの選択で、なかなか楽しみな公演になりそうです。

 そんな発表のさなか、10日からは星組新トップコンビ紅ゆずる・綺咲愛里のお披露目公演、ミュージカル『THE SCARLET PIMPERNEL』が宝塚大劇場で開幕しました。2008年の初演時、紅が新人公演で主演したゆかりの深い演目とあって、初日は満員札止めの盛況。2番手時代が長かっただけに、ファンの待望感も相当なもので、初日の熱気は独特のものがありました。それに応えて紅も、終演後の挨拶で「ファンの方の応援があればこそ今日がありました。ありがとうございました」と感謝、その言葉に満員の客席から大きな拍手が送られました。

 そんな新旧入れ替わりが話題の2017年前半の宝塚ですが、6月1日発売のわが『宝塚イズム35』は、雪組トップコンビ早霧せいな・咲妃みゆの退団を惜しんで、彼女たちのコンビの魅力を大解剖します。現在は雪組ですが、早霧は宙組が生んだ最初のトップスターでもあります。華奢な体のどこにあれだけのパワーがあるのか、その源を執筆メンバーが探ります。大いにご期待ください。もちろん、柚希礼音、北翔海莉のもとで2番手修業をした星組新トップ紅ゆずるのお祝い特集もあります。常に動いている宝塚だからこそ、いましっかりと書きとめておかないといけない。『宝塚イズム』のテーマはそれに尽きるでしょう。執筆メンバーからそろそろ原稿が届くころです。編著者として、宝塚への愛にあふれた多くの原稿を読むのを楽しみにしたいと思います。

 

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第6回 花組トップ娘役・花乃まりあ退団に贈る言葉

鶴岡英理子(演劇ライター。著書に『宝塚のシルエット』〔青弓社〕ほか)

 つい先日2017年年頭のご挨拶をさまざまな方たちと交わしたつもりでいましたが、早くもめくれたカレンダーの2枚目、2月が終わりに近づいています。まさに飛ぶように過ぎていく毎日に息つく暇もない思いですし、すでに手配している劇場の前売り券には6月・7月の公演も交じってきました。あまりにも先すぎるように思いながら、このチケットで客席に座るまで、ちゃんと元気でいなければ!と前売り券に鼓舞されているような気持ちにもなるのは、ライブパフォーマンスを愛する者の特権かもしれません。
 そんななか、6月1日刊行予定の『宝塚イズム35』の準備も着々と始まっています。幸い『宝塚イズム34――特集 さよなら北翔海莉&妃海風』は大変ご好評をいただき、青弓社にほぼ在庫がない状態ということで、編著者の一人としてうれしく、ありがたく思っています。書店によってはまだ並んでいるかと思いますので、気になっている方は店頭でぜひお求めください。その熱い勢いに乗って!と、『35』の編集会議も白熱し、平成のゴールデンコンビとうたわれた雪組トップコンビ早霧せいな&咲妃みゆ退団特集を軸に、星組新トップコンビ紅ゆずる&綺咲愛里お披露目、宝塚レビュー90周年、など盛りだくさんなテーマでお送りすべく動いています。こちらもどうぞお楽しみになさってください。
 と、思いは先へ先へと進んでいくのですが、一方でこの2月を思い返しますと、第一日曜日の2月5日、宝塚花組公演『雪華抄』『金色の砂漠』東京宝塚劇場千秋楽をもって、花組トップ娘役・花乃まりあが宝塚を去っていきました。
 2010年、『THE SCARLET PIMPERNEL』(月組)で初舞台を踏んだ花乃は、宙組に配属。可憐な容姿の新進娘役として、いち早く頭角を現します。12年、宙組6代目トップスター凰稀かなめのトップお披露目公演『銀河英雄伝説@TAKARAZUKA』の新人公演では、ヒルデガルド・フォン・マリーンドルフ(ヒルダ)役を演じ、早くも新人公演初ヒロイン。13年、同作品の博多座公演では、物語の重要人物ヤン・ウェンリーの養子ユリアンを、キリリと芯が通った少年役として生き生きと演じ注目を集めます。その後も『モンテ・クリスト伯』(宙組、2013年)の新人公演でヒロイン・メルセデス役、『the WILD Meets the WILD』(宙組、2013年)のエマ・トゥワイニング役で宝塚バウホール公演初ヒロイン、さらに『風と共に去りぬ』(宙組、2013年)の新人公演では、本公演で男役スターの朝夏まなと・七海ひろきが演じていたヒロイン、スカーレット・オハラ役を演じ、娘役が演じるスカーレットならではの、可憐さをもった体当たりの熱演を披露しました。何より、博多座公演からここまでの経歴がすべて2013年1年間でのことだった、という事実が雄弁に語るように、花乃は宙組の秘蔵っ子、未来のヒロイン娘役候補生として、大切に大切に育てられてきたのです。
 ですから、翌2014年に花組に組替え、『ベルサイユのばら――フェルゼンとマリー・アントワネット編』(花組、2014年)の中日劇場公演でのロザリー役、『エリザベート――愛と死の輪舞』(花組、2014年)新人公演でのエリザベート役を経て、花組トップスター明日海りおの2代目の相手役、花組トップ娘役に花乃が就任したことは、宙組時代の彼女を知る者からすれば、しごく当然の流れに思えたものでした。
 ところが、明日海の相手役という観点だけで見れば花乃がやや大柄だったことや、これまで当たり役にしてきたのが、『the WILD Meets the WILD』のエマや『風と共に去りぬ』のスカーレットという、宝塚の娘役特有の砂糖菓子のような愛らしさとは一つ異なる、勝ち気な性格の役どころだったこと、さらに持ち味にどこか現代的な香りがあったことが、古典的な美貌を誇る明日海の個性と、ややなじみにくいのでは?ということ――これらが懸念され、ファンの一部から不安の声が上がったのもまた事実で、花乃の才能を高く買っていた一人として、私も陰ながら気をもんだ時期があったものです。
 けれども、トップ娘役として一つひとつの作品に立ち向かううちに、役柄に対してひたむきでまっすぐな花乃らしい演じぶりが、やはり芝居をとことん深めていく明日海とがっぷり向かい合う真剣勝負に、日々爽快さを加えていったように思います。確かに寄り添い型の娘役ではなかったかもしれませんが、でもだからこそ、進化するコンビとしての面白さは抜群でした。『Ernest in Love』(花組、2015、16年)のグウェンドレン、『カリスタの海に抱かれて』(花組、2015年)のアリシア・グランディー、『ベルサイユのばら――フェルゼンとマリー・アントワネット編』(花組、2015年)のマリー・アントワネット、『新源氏物語』(花組、2015年)の藤壺の女御、『ME AND MY GIRL』(花組、2016年)のサリー・スミス、『仮面のロマネスク』(花組、2016年)のメルトゥイユ夫人、そして、『金色の砂漠』のタルハーミネ。こうして並べてみると、意外にも再演物が多いのですが、そのどれもが花乃でなければ、もっといえば明日海と花乃でなければという、丁々発止のやりとりを楽しめる作品になっていたのは、宝塚を観る楽しみをさらに超えて、芝居を観る醍醐味にあふれていました。特に、『ME AND MY GIRL』以降の作品には、花乃のなかになかったはずがない悩みや葛藤が吹っ切れたかのような伸びやかさと勢いがあり、宙組の若手時代のおおらかさも戻って、生き生きと輝く花乃を観ることができ、実にうれしい期間でした。
 そんな花乃だからこそ、退団公演になった『金色の砂漠』の、男役トップスターが奴隷でトップ娘役が王女という、女性が夢を見られるファンタジー世界のなかでの男性優位を描いてきた宝塚としてはイレギュラー中のイレギュラーである設定が生み出す、互いの矜持をかけた愛憎相半ばするきわめてディープな世界を演じきることができたのだと思います。『金色の砂漠』は、花乃まりあという娘役にとっても、また明日海&花乃コンビにとっても、集大成であり代表作に仕上がりました。これぞ有終の美とたたえられるべきものにちがいありません。
 ですから、2月5日の千秋楽におこなわれた花乃まりあサヨナラショーでは、『ME AND MY GIRL』を中心に、花乃の代表作のナンバーを芝居チックにつなげていく見事な構成とともに、実に晴れやかな花乃を堪能できたのも当然だったのでしょう。真紅のドレスで大階段に1人立つ花乃が劇場中に発したオーラのなんと輝いていたことか! 台湾公演にももっていった『宝塚幻想曲』(花組、2015年)の「花は咲く」による明日海との名残のデュエットダンスも美しく、なんとも華やぎに満ちた時間が流れていきました。筋金入りの「雨女」だという花乃ですが、この日東京の天気はどうにかもち、明日海が「花組の雨姫は、今日はみなさまの心と(自分の頬を指して)ここに雨を降らせたのだと思います」という、なんとも粋で愛にあふれた言葉で、去りゆく相手役をねぎらったのがことさらに印象的で、花乃の真摯な別れの言葉とともに胸に深く残るものがありました。
 だからこそ、トップ娘役として花乃まりあが本懐を遂げて退団していったことを疑う余地はないのですが、少し気になるのは、花乃が今後芸能生活をする予定はなさそうだという声です。それはあまりにももったいない!と伝えたい気持ちでいっぱいです。花乃は、宝塚の枠を広げる域にまで達したあの芝居力、映像にも出ていけるビジュアル、心地いい声と、たくさんの宝石をもった表現者です。しばらくはゆっくり休んで、そしていつかどんな形でもいいから、また表現することを始めてほしいと、声を大にして言っておきたいと思います。そんな願いとともに、大輪の花を咲かせた宝塚トップ娘役・花乃まりあに拍手を贈ります。お疲れさまでした、そしてすばらしい舞台をありがとう。

 

Copyright Eriko Tsuruoka
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第5回 レビュー90周年、2017年の宝塚のゆくえは?

薮下哲司(映画・演劇評論家。元スポーツニッポン新聞社特別委員、甲南女子大学非常勤講師)

 新しい年が明けました。2017年は、宝塚的にいうと「レビュー」という名称で洋物ショーが上演された『モン・パリ』(1927年)の初演から数えて90周年という記念の年になります。宝塚大劇場ではそれを記念した月組公演、レビュー『カルーセル輪舞曲(ロンド)』を元日から上演中です。『モン・パリ』は、作者・岸田辰彌の日本からパリへの船旅をそのまま舞台に再現しましたが、今回はパリから出発して世界をぐるっと回って宝塚に帰ってくるという構成。作者の稲葉太地はニューヨークやブラジルの場面などできちんと宝塚歌劇の先人たちのレビューにオマージュを捧げ、フィナーレを大階段をバックにした男役の黒い燕尾服と娘役の純白のドレスの優雅で華やかな群舞で締めくくり、見事な宝塚レビュー讃歌になっていました。『エリザベート』(1996年初演)が大ヒットする前に初演されたミュージカル『グランドホテル』(1993年初演)の24年ぶりの再演との2本立てですが、非常に充実した内容で、現在の宝塚歌劇のパワーを存分に証明したといっていいと思います。『カルーセル輪舞曲』は、3日にはNHKBSプレミアムでさっそく録画中継されたのでごらんになった方も多いのではないでしょうか。新トップ珠城りょうの大劇場お披露目公演ですが、宝塚歌劇にとってもずいぶん晴れやかな新年のスタートになったのではないかと思います。
 正月公演は以前、NHKが元日に大劇場から初日の模様を生中継していましたが、宝塚がライブDVDを発売、CSで専門チャンネルの放送をするようになってからは、いつのまにかなくなっていました。ですが、今年から再開するようです。100周年を盛況裏に終え、その後も順調なことから自信が付いたのでしょうか。守り一辺倒からようやく攻めの姿勢に転じたのは、これからの宝塚歌劇の発展にとって喜ばしいことだと思います。再開第1回の今年は生中継ではありませんでしたが、ほぼ実際の公演と同じ時間帯での放送で、臨場感にあふれていました。衛星放送とはいえ、NHKで録画中継が実現したことは、宝塚歌劇を観たことがない人たちへの格好のプレゼンテーションになったのではないかと思います。
 神戸の女子大学で宝塚歌劇講座を担当して今年で11年目になります。毎回、講義の1回目に「宝塚歌劇を観たことがあるか、ないか」というアンケート調査をするのですが、観たことがあるという回答は受講生の1割にも満たないのが現実です。地元・神戸の女子大学でこれですから、全国的には推して知るべし。そんな彼女たちに宝塚の魅力を伝えるのは言葉ではありません。実際の公演を観てもらうのがいちばん。それまで彼女たちがもっていた宝塚歌劇に対するイメージは公演を観ることによって一気に払拭され、ファンになる学生が続出します。それだけ宝塚歌劇の魅力というのは独特で強烈なインパクトがあります。専門チャンネルはファンを育てるコンテンツとしては最上ですが、ファンになる前の初心者を引き付けるにはやはりNHKの全国放送に勝るものはありません。
 中継放送再開がきっかけで、いつの日かまたNHKに宝塚のバラエティー番組ができて、『紅白歌合戦』でタカラジェンヌが歌うところまで発展すれば申し分ありません。大竹しのぶの「愛の讃歌」が悪いとはいいませんが、望海風斗がNHKホールで絶唱、全国の視聴者をびっくりさせたいと思うのは私だけではないと思います。
 正月公演の中継の話題からとんでもないところに話が飛びましたが、2017年の宝塚歌劇はどうなるのでしょうか。小川友次理事長は雑誌「歌劇」(宝塚クリエイティブアーツ)の年頭所感で、全国のシネマコンプレックスでのライブ中継をさらに充実させるとともに、技術力・作品力など「総合力」のさらなるアップを目指すと表明しています。正月の月組公演、まずは幸先がいいスタートになったと思います。
 気になるスターの動向ですが、宝塚ならではの新陳代謝をさらに積極的に加速させようとする狙いがうかがえます。今年は7月に雪組のトップコンビ、早霧せいなと咲妃みゆが退団することがすでに発表されています。100周年以降にトップになったコンビが退団するのは星組の北翔海莉、妃海風に続いて2組目。宝塚というところは本当にめまぐるしく動いているのだなあというのが正直な印象です。
 昨年暮れ、花、月、星、宙の4組のスタークラスが勢ぞろいした『タカラヅカスペシャル2016――Music Succession to Next』が開催されました。年に一度の祭典で、各組のスターが一堂に会して全体的なスターランクが明確になることから毎年注目されてきました。最近はトップ、2番手以外のランクを明確にすることはほとんどなく、すべて同ランク的な扱いで、どこからも文句が出ないように無難にまとめてきた感がありましたが、今年は久々にドラスティックな動きがありました。
 星組が新トップコンビ、紅ゆずると綺咲愛里のお披露目、月組も珠城がトップとして『タカラヅカスペシャル』初出演だったこともあり、各組の2番手は花組・芹香斗亜、月組・美弥るりか、星組・礼真琴、宙組・真風涼帆がラインアップ、一気に若返った感がありました。ここまではごく当たり前で順当だったのですが、第1部の後半、専科の凪七瑠海、沙央くらま、星条海斗、華形ひかるが歌い継いだ作曲家・寺田瀧雄の17回忌にちなんだメモリアルコーナーで、事態は一変しました。バックで踊った柚香光、暁千星、七海ひろき、愛月ひかるの各組3番手にそれぞれ女役のお相手が付き、それを各組の次代を担うと期待されるスターたちが務めたからです。その4人は花組・水美舞斗、月組・朝美絢、星組・瀬央ゆりあ、宙組・桜木みなとの面々でした。各組には各組の事情があり、組だけの公演ではどうしても抜擢しづらいところをこういう形で起用、劇団の期待の高さを示してみせたのはなかなかでした。これが偶然のことではないのは、12月26日に発売された雑誌「an・an」(2016年12月28日―1月4日合併号、マガジンハウス)の宝塚特集を見ても明らかです。「2017年もやっぱり宝塚が好き!」という特集記事で「いま注目の次世代スター」として登場したのがほかならぬこの4人と雪組の月城かなとでした。
『宝塚イズム35』(6月1日発売)も、そんな2017年宝塚のホットな動きをふまえて、いよいよ今月から始動します。編集会議はこれからですが、7月の『幕末太陽傳(ばくまつたいようでん)』千秋楽で退団する雪組のトップコンビ、早霧と咲妃をふまえ、彼女たちの宝塚での足跡を振り返り、今後の活躍に期待する2人のサヨナラ特集がやはり最大の目玉になることでしょう。ほかにもさまざまな新企画、タイムリーな特集を打ち出していきたいと思っています。ご期待ください。

 

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第4回 早霧&咲妃コンビの退団発表と充実の轟主演舞台に見える宝塚

鶴岡英理子(演劇ライター。著書に『宝塚のシルエット』〔青弓社〕ほか)

 宝塚歌劇の評論シリーズの最新号『宝塚イズム34』を12月1日に無事刊行しました。特集は11月20日に宝塚を巣立っていった北翔海莉&妃海風コンビに贈る評論の花束「さよなら北翔海莉&妃海風」。小特集に『アーサー王伝説』(月組、2016年)で月組トップスターとしてのスタートを切った珠城りょうにエールを送る「珠城りょう――若き月組トップへの期待」と、非常にレベルが高い仕上がりとなった『ドン・ジュアン』(雪組、2016年)で主演し、進境著しい雪組2番手スター望海風斗をキーワードに各組2番手を語る「望海風斗の衝撃――各組二番手戦力分析」をそろえました。このほか、2016年4月から11月の大劇場作品公演評、編著者2人で外箱公演を一気に振り返る対談、東西の新人公演評、OG公演評、さらに宝塚OGによる『CHICAGO』ニューヨーク公演観劇報告と、天津乙女さんのありし日をつづった貴重な寄稿文。そして17年の元旦から月組で幕を開けるミュージカル『グランドホテル』の初演主演者である涼風真世さん登場のOGロングインタビューまで、充実のラインアップになっています。北翔&妃海ファンのみなさんからはもちろん、望海ファンの方々からもさっそく熱いメッセージが届いているのに加え、紫の美しい装丁も、北翔海莉&妃海風サヨナラ公演のロマンチック・レビューや、サヨナラショーで再現された『LOVE&DREAM』(星組、2016年)のシンデレラのシーンで妃海が着用したドレスを連想するという声をいただき、大変うれしく思っています。宝塚ファン必携の評論シリーズとして今後もますます内容を充実させていきますので、ぜひ書店でお買い求めください。青弓社サイトからのオーダーももちろん可能です。
 さて、宝塚の大きな動きとしては、なんといっても圧倒的な人気を誇る雪組のトップコンビ早霧せいなと咲妃みゆが2017年7月23日、『幕末太陽傳』『Dramatic“S”!』東京宝塚劇場公演千秋楽をもって同時退団するという発表がなされたことでしょう。さまざまな要因から、この公演での退団が予想はされていた2人ですが、宝塚の動員記録を塗り替え、コンビとしても組としても乗りに乗っている時期だっただけに、劇団がこれだけのトップコンビをそう簡単に手放さないのではないか?という思いもどこかではあり、正式な発表にはやはり大きな寂しさが募りました。最近では異例のトップコンビの同時退団発表、しかもその会見日が11月22日「いい夫婦の日」というのは、もちろん狙ったことではなかったそうですが、2人のプレお披露目公演だった『伯爵令嬢』(雪組、2014年)の初日前囲み会見で早霧から「結婚します。そのくらいの覚悟がないとね」という咲妃をちょっとからかった発言が飛び出したこの2人らしいなと、感慨も大きかったものです。退団発表を挟んで東京での上演となった『私立探偵ケイレブ・ハント』(雪組、2016年)は、早霧時代の雪組では初めてとなるオリジナルのスーツ物。2人が初めから恋人同士という設定に新鮮さがあり、コンビとしてキャリアを重ねてきたいまだからこそ出せる雰囲気がきちんとあって、面白い仕上がりになっていました。原作物でヒットを飛ばしてきた印象が強い雪組だけに、適材適所に配置された主要メンバーの活躍に、オリジナル作品なればこそのよさも感じられました(鳳翔大には、何かもう少し別の役を書いてほしかったですが)。さらに、ショー『Greatest HITS!』は、大劇場ではいくら「あわてんぼうのサンタクロース」を組み入れていても、ちょっと早すぎるなぁと感じられたクリスマスメドレーがどんぴしゃり!のシーズンになったことも手伝って、明るい楽しさにはじけていて、癖になるショーとして楽しめます。ここでも圧巻はやはり早霧&咲妃のデュエットダンスで、ベートーヴェンの『運命』を使った望海&彩風咲奈による赤と白の激しい対立の場面が、2人の緑がもたらす安らぎと幸せオーラによって昇華される流れは、いま絶好調の雪組を象徴するシーンとしてなんとも美しいものでした。本当に早霧&咲妃は、2人が並んだときの絵面としての美しさが抜群なだけでなく、芝居をしてもともに踊っても、お互いがそれぞれのよさを引き出し合い、引き立て合う、近年屈指のベスト・カップルです。正直、まだまだこの2人で観たかった作品、夢は多くありますが、残された7カ月、2人ならではのラストランの輝きを見届けたいと思います。もちろん、次代を担うだろう望海の、任せて安心の盤石さと豊かな歌唱力にも、また新たな夢が描けることでしょう。宝塚はこうして続いていくのですね。つくづくすごいシステムだなと感じずにはいられません。
 一方で、この雪組公演と同じ時期に、KAAT神奈川芸術劇場で専科の轟悠と宙組トップ娘役の実咲凜音をはじめとした宙組精鋭メンバーによる『双頭の鷲』も上演され、その高い完成度に圧倒されました。脚本・演出の植田景子の美意識が凝縮された舞台で、それに応えた出演者・スタッフすべての力がほとばしるさまは見事なものでした。ジャン・コクトーの『双頭の鷲』(1946年)を宝塚で上演しようというこの企画自体もそうなのですが、ここ数年、轟悠の存在が宝塚の幅を広げ、新たな挑戦を成し遂げている姿には、退団と新トップスター誕生という別れと再生を繰り返す宝塚のスターシステムが紡いできた100年を超える伝統とはまた別の安定を宝塚にもたらしていることを確かに感じずにはいられません。役者には年齢を重ねないとできない役柄が確実にありますし、轟さえいれば今後の宝塚でそうした役柄を脇筋ではなく主役で取り上げることが実現していくと思います。変わり続けることでバトンをつないできた宝塚に変わらない象徴があることは、やはり貴重なものですね。春日野八千代亡きいま、その重みを痛感します。
 そんな轟が『For the people――リンカーン 自由を求めた男』(花組)そして『双頭の鷲』という秀作をそろえてきたのをはじめ、2016年の宝塚には見応えある作品が並びました。新たなファンを獲得した『るろうに剣心』(雪組)。実在の人物を宝塚ならではの自由さで描いた作品が、くしくもトップスター退団公演としてそろった『NOBUNAGA〈信長〉――下天の夢』(月組)、『桜華に舞え』(星組)。宝塚の財産演目である海外ミュージカル『ME AND MY GIRL』(花組)、『エリザベート――愛と死の輪舞』(宙組)。オペレッタの『こうもり』(星組)への挑戦や、シェイクスピアの人生を作品でコラージュした意欲作『Shakespeare――空に満つるは、尽きせぬ言の葉』(宙組)。またオリジナル作品ならではの作家の個性が表れた『私立探偵ケイレブ・ハント』(雪組)、『金色の砂漠』(花組)が続きました。さらに数多くのショー作品のきらめきが並び、外箱に目を転じれば『ローマの休日』(雪組)、『ドン・ジュアン』『アーサー王伝説』など、大作も多く登場しています。6月と12月に発行している『宝塚イズム』では、残念ながらこうした1年の作品のベストを語り合うような企画は作りにくいのですが、きっと宝塚ファンの間では、一人ひとりの胸にある独自のベストに話がはずんでいる時期ではないでしょうか。見どころの多い作品がそろった2016年の宝塚。この勢いと盛り上がりが、また17年にも続いていくことを期待しています。

 

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第3回 北翔&妃海の退団から思うこと

薮下哲司(映画・演劇評論家。元スポーツニッポン新聞社特別委員、甲南女子大学非常勤講師)

 宝塚歌劇の評論シリーズの最新号『宝塚イズム34』の発売日、12月1日が迫ってきました。すでに原稿はすべてそろい、現在は校正、印刷、製本と出版に向けての最終段階といったところです。
 今号の目玉は、11月20日の星組公演『桜華に舞え』『ロマンス!!(Romance)』東京公演千秋楽で退団するトップコンビ、北翔海莉と妃海風のサヨナラ特集で、2人が宝塚に残した足跡をたどりながら、それぞれのタカラジェンヌとしての資質と魅力を、オフの人柄や舞台姿などさまざまな面から分析・解析していきます。
 北翔海莉という人は、最近のタカラジェンヌには珍しく宝塚歌劇のことを何も知らずに受験、入団。持ち前の負けん気で猛勉強、宝塚音楽学校在学中の2年間で頭角を現しました。まさに努力の人で、それは20年後、退団する現在までずっと変わりませんでした。
 退団公演は、明治維新の立役者・西郷隆盛の右腕として西南戦争で壮絶な戦死をとげた桐野利秋の半生を描いた齋藤吉正の書き下ろしのミュージカル『桜華に舞え』で、北翔はもちろん主人公の桐野を演じました。生粋の薩摩藩士役で齋藤の脚本の台詞は全編ほとんど鹿児島弁。もちろん歌劇団には方言指導のスタッフがいるのですが、それで飽き足らない北翔は、役作りを兼ねて早くから鹿児島へ出向いて実地特訓、現地出身の人が聞いて遜色のない自然な鹿児島弁を舞台で操りました。宝塚での公演が終わり、東京公演までのあわただしい時間の合間にも、再度鹿児島へ。舞台で披露する自顕流の特訓を改めて受けにいくというほどの念の入れ方。退団公演の宝塚と東京の合間に、改めて役作りのための特訓をしたトップスターというのは、長い宝塚取材歴のなかでも初めて聞きました。トップスターは退団を発表すると、雑誌「歌劇」(宝塚クリエイティブアーツ)や「宝塚GRAPH」(宝塚クリエイティブアーツ)のサヨナラ特集の取材、さらにCSチャンネルの特集番組収録、加えてサヨナラ記念写真集の撮影など、そうでなくとも退団の準備や本業の舞台で多忙にもかかわらず、その合間を縫っての殺陣の稽古というのは、まさに完璧主義者・北翔らしいエピソードでした。そのぶれない姿勢には本当に頭が下がります。
 もともと、何事もやり始めたら究めるまでやらないと気がすまないタイプらしく、横笛も運転免許もフラメンコも、役作りのためにやり始めたらとことんやってしまうという性格。宝塚でのトップ就任も、入ったのだからとことん究めるという彼女なりのポリシーの成就だったのかもしれません。
 宝塚での千秋楽は、大劇場全体が彼女らしい温かい雰囲気に終始包まれ、とてもいいサヨナラショーでした。20日の東京での千秋楽はさらに盛り上がることになるでしょう。何も知らないで入った宝塚を愛し、仲間を愛し、ファンを愛した北翔のこれからの活躍を切に願いたいものです。すでに、さまざまなところからのオファーがきていて、水面下では決まっているものもあるようですが、さしあたりは年末のファンクラブ対象のディナーショーから再スタートになるようです。歌に芝居になんでもできる強みで、あわてずじっくりと長いスタンスをもって活躍してほしいと思います。
 さて、北翔・妃海という星組トップコンビが退団すると、さっそく次期の紅ゆずる・綺咲愛里という新コンビが12月の『タカラヅカスペシャル2016――Music Succession to Next』でお披露目、早くも始動します。人が変わればまた組は別のカラーに染まり、新たな星組に生まれ変わります。これこそが宝塚が102年続いてきた原動力の一つでしょう。二番手には成長目覚ましい礼真琴、それをサポートする七海ひろきの人気上昇も見逃せません。麻央侑希や十碧れいやといった中堅に加えて綾凰華や天華えまといった若手の成長も頼もしいかぎり。

 一方、北翔退団で一段落した星組のあとは、次なるトップスター退団の動きに注目が集まっています。この原稿の締め切りまでにはまだ発表がありませんが、先ごろ、星組の実力派娘役・真彩希帆が雪組に、雪組の人気男役スター・月城かなとが月組に異動することが発表されるなど、次期体制作りが着々とおこなわれていて、発表は時間の問題です。こうして次々に新陳代謝が繰り返される宝塚は、旬のスターの魅力を楽しむエンターテインメントなのだなあとつくづく感じ入ります。それがうまくいったときには本人の実力以上の輝きがあふれます。
 それを改めて確認したイベントの発表がありました。12月から来年(2017年)にかけておこなわれる『エリザベート TAKARAZUKA20周年 スペシャル・ガラ・コンサート』制作発表会見です。今年(2016年)は『エリザベート』が宝塚で初演されて以来20年、その掉尾を飾ってこれまでの公演に出演してきたスターたちが一堂に会してのガラコンサートが開催されることになり、にぎやかに制作発表会見がおこなわれたのです。
 壇上に上がったのは、初演の雪組公演に出演、トート役を演じた一路真輝、再演の麻路さき(星組)、姿月あさと(宙組)、彩輝なお(月組)、春野寿美礼(花組)、水夏希(雪組)。エリザベート役の大鳥れい(花組)、白羽ゆり(雪組)、退団したばかりの龍真咲(月組)、そして月組公演に出演した専科・凪七瑠海の10人。
 席上、演出の小池修一郎が「まさか20年続くヒット作になるとは夢にも思わなかったが、いま振り返ると、初演のメンバーはじめ、この作品を演じてくれた生徒たちが青春の情熱のすべてを振り絞って取り組んでくれていたんだなあと思う。それがいまに続いているんだと思う」としみじみと語ったとおり、生徒がそのときそのときのもてる力を最大限に作品にぶつけていて、それぞれの思いがまさに青春なのでした。しかし、この作品を通過して宝塚を卒業、改めてこの作品に向き合ったとき、宝塚時代とはまったく違ったトートなりエリザベートが生まれる。それぞれが人生経験を積んだあとの『エリザベート』は、深みがあり奥行きが出て、宝塚時代とはまた違ったすばらしさがある。しかし、無垢な青春時代の『エリザベート』は帰ってこない。今年、20周年ということで『エリザベート』は東宝版と宝塚版が同時に上演されました。朝夏まなとと実咲凜音が演じた宙組公演は、東宝版に比べるとなんだか幼く見えたようにも思います。でも、それが宝塚の魅力なのだと、会見でのOGたちを見ていて改めて感じ入りました。どちらがいいとはもはやいえない。その違いをぜひ『エリザベート TAKARAZUKA20周年 スペシャル・ガラ・コンサート』でも確かめてほしいと思います。

 さて2016年の宝塚は、100周年人気の余韻を引き継ぎ、年初から好評裏に推移。『るろうに剣心』(雪組)のヒット、月組の龍真咲、星組の北翔海莉の退団公演の間には『エリザベート』再演(宙組)と、ほぼ毎公演満員の盛況が続いています。この好調をどのように持続していくか、それにはスムーズなスター交代人事と新作のヒット作を生み出すことに尽きるでしょう。制作陣の手腕を切に期待したいと思います。

 

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第2回 退団から再生へ――宝塚が刻み続ける日々を追って

鶴岡英理子(演劇ライター。著書に『宝塚のシルエット』〔青弓社〕ほか)

『宝塚イズム』が年2回刊行となって1年半以上がたちました。このネット全盛の時代、半年に1冊という刊行ペースで、日々動き続ける宝塚歌劇の何を語っていくか、当初は編著者の一人である私自身が戸惑いを覚えたのが正直なところです。けれども、回を重ねるにつれて、即時性にとらわれずに宝塚の半年間を外部からじっくりと見つめ、「書籍」という形で残すことに、新たな意義を感じています。
 そのような思いで、現在『宝塚イズム34』の準備中ですが、宝塚の大きな動きとしては、『宝塚イズム33』でそのオンリーワンの輝きを特集した月組トップスターの龍真咲が、9月4日の東京宝塚劇場月組公演千秋楽を最後に、宝塚を卒業していきました。
 女性だけの歌劇団である宝塚は、存在そのものが一つの幻想空間ですが、その幻想空間のなかにも確実に時代の波は訪れていて、端的にいえば男装の麗人である男役も、よりナチュラルな方向へと緩やかな変化を遂げ続けているのを感じます。
 そんな時代のなかに、忽然とそそり立ったのが龍真咲でした。独特の台詞回し、歌唱、火の玉のように猪突猛進な演じぶり。すべてが熱く、濃い。かつて『ベルばら』四強の一人に数えられ、「炎の妖精」と称された汀夏子や、野性的でワイルドな男役を得意とした順みつきなどをほうふつとさせるその個性は、どこか時代をタイムスリップしてきたような、新鮮な驚きを常に与えてくれていたものです。さらに興味深いことには、それでいて不思議と龍には、時代に遅れてきたというような昭和の香りはまったくしなかったのです。がむしゃらにわが道を行きながら、憎めないやんちゃな風情のなかに、きちんと現代を背負ってもいる。改めて面白い個性派スターだったと感じます。
 そうした龍ですから、千秋楽でも本人は涙を見せず、むしろ泣いている観客を泣き笑いに持ち込むようなパフォーマンスを繰り出して、会場を大いに沸かせていたのが印象的でした。かと思うと、次代を担う珠城りょう、珠城の相手役を引き続き務めることになったトップ娘役の愛希れいかという、月組の新コンビをこれからもよろしくと、観客にきちんと託すことも忘れず、紋付き袴の正装ですっきりと美しいラストデーを飾っていました。退団後にはすぐに「Instagram」を開始して、やはりおちゃめでやんちゃでファン思いの素顔を生き生きと発揮していますし、宝塚OGが集う『エリザベート TAKARAZUKA20周年 スペシャル・ガラ・コンサート』(2016―17年)では、持ち役のルイジ・ルキーニだけでなく、タイトルロールのエリザベートに挑むというビッグサプライズも発表されました。これからもその活動から目が離せないOGスターがまた一人誕生したのだなと、強く感じています。
 そんな龍が残した月組は、珠城りょう&愛希れいかの大劇場お披露目作品『グランドホテル』『カルーセル輪舞曲(ルビ:ロンド)』(月組、2017年)の制作発表から、早くも再始動しています。会見のパフォーマンスでは、珠城の大人の魅力が炸裂。たばこを吸うシーンの堂に入ったことには、まだ男役10年を数えていないスターなのだということを忘れ去るほどの余裕が感じられました。経験を重ねた愛希とのコンビも、いい効果をあげそうです。この制作発表会見には美弥るりかも参加していて、新生月組の新しい形が見えつつあるかに思えましたが、今回ポスター入りした朝美絢と雪組の月城かなとが、この公演のあとにいわばトレードされるという発表がありました。両者ともにスターぞろいの「花の95期生」ですが、この組替えも月組の未来にとって意味があるものになっていきそうです。そんな珠城体制の新月組への期待は、次号『宝塚イズム34』でも小特集を組みますので、ぜひご期待ください。
 また他組に目を転じますと、来年(2017年)2月での退団を発表した花組トップ娘役の花乃まりあに続いて、宙組トップ娘役の実咲凜音が同年4月での退団を発表しました。このところは、星組の北翔海莉&妃海風のようにトップコンビが同時退団するケースのほうが、むしろ少なくなっているのかな?というほどに、男役トップ、娘役トップがそれぞれの思い、それぞれの「いま」を見定めて退団していくケースが増えているように思います。俗にいう「添い遂げ退団」が美学だった、そういう時代もまた、宝塚から次第に遠くなっているのかもしれません。
 そんななかで、花乃は『ME AND MY GIRL』(花組、2016年)のサリー・スミス役から一転、全国ツアー『仮面のロマネスク』(花組、2016年)のフランソワーズ・メルトゥイユ侯爵夫人役で、明日海りお演じるジャン・ピエール・ヴァルモン子爵に一歩も引かない丁々発止の、火花散る芝居を繰り広げて、大輪の花を咲かせていました。メルトゥイユ侯爵夫人はもともと初演の花總まりに当てて書いてあるので、男役に寄り添うというよりは、男役に正面から並び立つような格が要求される役どころですが、それを堂々と果たしていて見事でした。本来大人びた個性をもつ人でもありましたが、芝居を日々追求して深めていく明日海の相手役として、どれほど努力してきたかがしのばれる成長ぶりで、退団公演となる『金色(ルビ:こんじき)の砂漠』(花組、2016―17年)の成果も楽しみです。
 さらにその花乃の後任には、さまざまな娘役の名前が巷間取り沙汰されていましたが、同じ花組から仙名彩世の昇格が決まりました。こちらは来年の全国ツアーで再び上演される『仮面のロマネスク』で花乃のあとを受けて演じる、メルトゥイユ侯爵夫人がトップ娘役としてのお披露目となります。今回演じていたマリアンヌ・トゥールベル夫人も大役ですが、轟悠の相手役を務めた経験もあり、押し出しがいい仙名には、メルトゥイユ侯爵夫人がより柄に合う予感がします。どちらかというと似たタイプの娘役間でのバトンタッチとなりましたが、とはいえやはりこれによって明日海から醸し出されるものもまた自然に変化していくことでしょう。大人のコンビの誕生といえそうです。
 一方、『エリザベート――愛と死の輪舞(ルビ:ロンド)』(宙組、2016年)のタイトルロールに臨んでいる実咲もまた、次の大劇場公演『王妃の館』『VIVA! FESTA!』(宙組、2017年)で退団です。こちらは前任の凰稀かなめの相手役から現在の朝夏まなとの相手役と、2代続けてトップ娘役を務めてきましたが、作品の巡り合わせから、どちらかといえば辛抱役が続いていた凰稀時代から一転、朝夏時代には『TOP HAT』(宙組、2015年)、『王家に捧ぐ歌』(宙組、2015年)、『エリザベート』など、宝塚のヒロインの枠を超えた、作品の柱ともいえる役柄を次々に演じる機会に恵まれてきました。それだけに、ある意味でトップ娘役としての本懐は遂げたのだろうな……と想像するにかたくない活躍を示してきた人でもありますから、ラストランに向けてますます加速していくだろうこれからの日々にも期待が高まります。
 そして当然の流れとして、朝夏まなとにもまた新しい相手役が登場することになります。今回の異動では、ほかに雪組の有沙瞳と星組の真彩希帆のやはりある意味のトレードが発表されていますが、ここに宙組の娘役が絡んでいないということは、やはり宙組からの昇格なのでは?と予想されます。とはいえ宙組には注目の娘役が複数いますので、朝夏にとって2代目となる相手役が誰になるのかもまた目が離せない人事となりそうです。宝塚を観続けているかぎり、本当にこの種の興味関心が薄れることはありません。
 退団という大いなる寂しさを抱えた一大イベントが、そのまま新たな誕生、リボーンにつながっていく。これこそ宝塚が100年の歴史を刻んでこられた力の源でもあるのだと思います。そんな動向を注視しながらの、編集作業が今日も続いていきます。

 

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第1回 『宝塚イズム34』、順調に制作中!

薮下哲司(映画・演劇評論家。元スポーツニッポン新聞社特別委員、甲南女子大学非常勤講師)

 宝塚歌劇の評論シリーズ『宝塚イズム』の発行を半年に1回に変更して1年半あまりがたちました。
 ネットやブログで瞬時に情報がいきかう現在、しかもトップスターの退団が宿命づけられている宝塚歌劇は新陳代謝も激しく、コンテンツは次から次へと変化の連続なので、年2回刊ではニュースに追いつくことができないのではとの不安もありました。しかし、だからこそじっくりと分析して、作品と生徒の成果を振り返り、新しい人材に目を向けて今後に期待を寄せるというスタンスは貴重だと思います。
 読者からは「隔月刊に」とか「年4回をキープして」という要望もありましたが、日々の出来事や動向はウェブサイトを利用していただくとして、年2回刊のペースでお届けする「宝塚を愛する批評シリーズ」=『宝塚イズム』を引き続きご愛読ください。

 さて、年2回刊にしたために、ネットやブログと差別化を図って、記録としてきちんと残るものをと、毎回、編集会議にも熱がこもります。とはいえ、読者のみなさんにご説明が行き届かなかったこともあって、刊行間隔があいたので「『イズム』は休刊したのか」という誤解もありました。あらためて発売日をお伝えすると、1年の前半が6月1日、後半が12月1日です。この間隔でこれまで『31』『32』『33』の3号を発行しました。
 原稿締め切りはそれぞれ2カ月前ですから、内容のニュース性には限りがあります。そこで、『宝塚イズム』から逆にニュースを作り出すというねらいで先取りの企画を優先、それと対談形式を含めた公演評やOGインタビューの記事を組み合わせることで、評論シリーズとしての方向性を打ち出すことにしました。
 先取りの企画は、『32』号の特集である「『ベルばら』から『るろ剣』へ」で、「マンガと宝塚の幸福な出合い」を検証しました。また、『33』号の、20周年を迎えた『エリザベート』特集もその一例です。これにトップスターの退団特集を加えることでバラエティーに富んだ構成をお届けすることができました。

 とはいえ、半年に1回はやはりスパンが長すぎます。そこで青弓社のウェブサイトで、『宝塚イズム』では伝えられない宝塚歌劇の最新情報や、『宝塚イズム』の編集裏話などをお伝えしていきます。これが次号発売への期待につながって、読者のみなさんとの太いパイプになればこれにまさる喜びはありません。

 さて現在は、12月1日発売の『宝塚イズム34』の構成内容がほぼ固まり、執筆者が原稿の構想を練っているところです。『34』のメインは、11月20日付での退団を発表した星組のトップコンビ北翔海莉と妃海風のサヨナラ特集です。柚希礼音、夢咲ねねのあとに2015年5月にトップに就任した2人は、大劇場3作、たった1年半で退団することになりましたが、人気の実力派コンビとあって、各執筆者はさまざまな視点からアプローチし、充実した特集が組めそうです。サヨナラ公演『桜華に舞え』『ロマンス!!(Romance)』は8月26日から宝塚大劇場で開幕しましたが、評判は上々、チケットも全期間S席はほぼ完売ということで、公演自体も大いに盛り上がりそうです。『34』の発売日は東京公演千秋楽の11日後。北翔・妃海サヨナラの興奮がさめやらないなかで、2人のファンにも格好のスーベニールになることでしょう。

 それとは別に、『34』にはスペシャルな寄稿記事が2つあります。今回はそのひとつを紹介しましょう。元毎日放送事業局長の宮田達夫氏による「天津乙女さんとの想い出」がそれです。宮田氏は、1970年代から90年代までの報道局記者時代に宝塚歌劇の取材を担当しました。トップスターのサヨナラ千秋楽の模様をニュース番組で生中継したり、話題作の稽古場からスターのインタビュー取材をするなど、関西テレビの名物記者・丸山巌氏とともに宝塚歌劇をテレビニュースの素材として積極的に取り上げ、宝塚歌劇の知名度を高めるとともに一般視聴者の理解を深めた功労者の一人です。現在は、宝塚が自前でCS専門チャンネルをもったことから地上波の取材を歓迎せず、テレビ局にも宝塚歌劇に対する理解者がいなくなり、こういう放送は皆無になっています。
 その宮田氏とお会いする機会があり、『33』をお見せしたところ、「今年は天津乙女さんが亡くなって36年。僕は栄子さん〔天津さんの愛称〕を取材したことがあるんだけれど、それを書いてみようか」といううれしいお話。天津さんといえば、宝塚草創期から戦後にかけての大スター。“女六代目”といわれた日舞の名手ですが、その舞台姿を生で見ている人はもう少数になってきました。かくいう私も『朱雀門の鬼』(花組、1977年)を見て、そのピンと張り詰めた台詞の声ときびきびした動きに大いに感動した覚えがあるくらいです。宝塚バウホールで営まれた葬儀の取材をしたのですが、実際に取材したことはありません。
 宝塚も100周年が過ぎ、そろそろ何かの形で歴史をきちんと振り返ったものも必要かなあと思っていたのですが、作品や人と関係がない事象についてのこむずかしいものは『イズム』向きではないし、と思っていた矢先のことだったので、ぜひお願いしたいと思いました。「とりあえず書いてください。それから考えます」みたいな返事をしたところ、数日後にさっそく原稿がメールで送られてきました。原稿は、稽古場での天津さんへのインタビューの様子と芸歴60周年記念パーティーのエピソードなどがつづられています。天津さんの飾らない素顔が生き生きと伝わり、そこに天津さんがいるような錯覚を覚えるほどです。天津さんへのインタビューの様子など、いまや書ける人はそういません。さっそく編集会議でも了解を得て『34』のスペシャルレポートとなった次第。『宝塚イズム』ならではの貴重なインタビュー記事をお楽しみください。天津さんの葬儀は神式だったため仏式で数えることはないのですが、37回忌にふさわしい企画になったと思っています。

 さて、宝塚歌劇ですが、宝塚大劇場では宙組によるミュージカル『エリザベート――愛と死の輪舞』が千秋楽を迎えました。夏休みと重なってチケットは全期間前売りで完売していて、数少ない当日券を手に入れようとゲート前には連日早朝から長蛇の列ができる盛況ぶりです。初演以来20周年を迎えた『エリザベート』の変わらない人気を証明しています。トップスターの朝夏まなとの個性に合わせ、黄泉の帝王トートがウィーンの原典にそった現代的かつクールなつくりとなり、その評価は賛否両論ですが、作品的なレベルの高さは抜きんでていて、いまや宝塚の財産といっていいでしょう。公演評には多くの執筆者の手が挙がっています。どんな切り口の評が集まるかこれも楽しみです。12月の発売までいましばらくお待ちください。

『宝塚イズム』について
『宝塚イズム』は「愛がある在野の宝塚批評本」として、6月1日・12月1日の年2回刊行している書籍です。2007年から刊行を始め、2016年8月現在で『33』まで出版しています。宝塚歌劇団の公演評はもちろん、宝塚OGが出演している舞台の公演評などを所収して、幅広い年代のファンに楽しんでいただいています。
170ページ程度/A5判・並製/定価1600円+税

 

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