第34回 ご挨拶と『宝塚イズム43』「宇月颯&如月蓮&貴澄隼人、スペシャル鼎談!」こぼれ話

橘 涼香(演劇ライター・演劇評論家)

 梅雨が明けた途端に一気に酷暑に突入しました。暑くなれば少しは収束傾向になるのでは?と期待していた新型コロナウイルスの感染拡大に残念ながら歯止めがかからず、東京は4度目の緊急事態宣言発出中という混乱が続いています。それでも現在、東京での宝塚歌劇公演は、東京宝塚劇場での珠城りょう&美園さくらコンビ退団公演でもある月組公演ロマン・トラジック『桜嵐記』、スーパー・ファンタジー『Dream Chaser』が、夜の部の開演時間を30分前倒しするだけの変更で華やかに上演中。7月21日から池袋の東京芸術劇場プレイハウスで、トップ・オブ・トップとして20年間、宝塚を牽引した専科の大スター・轟悠の、宝塚の男役芝居としては最後の作品となる『婆娑羅の玄孫』が開幕。さらに首都圏のKAAT神奈川芸術劇場では、7月22日から星組男役スターとしてますます精彩を放ち続ける愛月ひかる主演ミュージカル・ロマン『マノン』が開幕など、このコロナ禍にあって、宝塚歌劇が歩みを止めない姿に勇気をもらう毎日です。

 と、まず時候のご挨拶から入らせていただきましたが、この「『宝塚イズム』マンスリーニュース」では「はじめまして」となります、演劇ライター・演劇評論家の橘涼香です。『宝塚イズム』(青弓社)には、単発でのいつくかの寄稿を経て、『宝塚イズム38――特集 明日海・珠城・望海・紅・真風、充実の各組診断!』(2018年)にご登場くださった朝夏まなとさんのOGロングインタビューを契機に、続巻のOGロングインタビューや、『宝塚イズム41――特集 望海風斗&真彩希帆、ハーモニーの軌跡』(2020年)からは「OG公演評──関東篇」も担当するなど、様々な形で参加してきました。そしてこのたび、絶賛発売中の『宝塚イズム43――特集 さよなら轟&珠城&美園&華』をもって鶴岡英理子さんが共同編著者を退くことになったことから、ご縁をいただき、2022年1月刊行予定の『宝塚イズム44』から編著者の大任に就くことになりました。特に年2回刊行になってから、薮下哲司さんと鶴岡さんが目指してこられた健全な批評誌としての『宝塚イズム』の精神を引き継ぎ、『宝塚イズム』の未来に、微力ながら貢献できたらと考えています。中心になってくださっている共同編著者の薮下さんとは、19年年末に東京宝塚劇場前にある日比谷シャンテビル内の書店・日比谷コテージ主催『宝塚イズム40――特集 さよなら明日海りお』刊行記念のトークショーでもごいっしょしましたし、その前から演劇現場でも様々にお世話になっていましたので、胸をお借りして務めてまいります。自分で申し上げるのも、の感がありますが、人一倍の宝塚愛をもっていると自負していますし、これまでも貫いてきた「酷評するなら書かない」のポリシーを胸に、宝塚、スターさん、作家さんほか、関わる方々へのリスペクトを忘れず、何よりも同じ宝塚を愛する同志である読者のみなさまに喜んでいただける誌面作りを目指していきますので、今後とも『宝塚イズム』をどうぞよろしくお願い申し上げます。

 さて、私の所信表明演説(!?)だけでは「『宝塚イズム』マンスリーニュース」になりませんので、ありがたくも大変なご好評で発売中の『宝塚イズム43』で担当した「『エリザベートTAKARAZUKA25周年スペシャル・ガラ・コンサート』、宇月颯&如月蓮&貴澄隼人、スペシャル鼎談!」のこぼれ話をご披露いたします。

 コロナ禍で果敢に開催された『エリザベートTAKARAZUKA25周年スペシャル・ガラ・コンサート』では、私自身も一瞬にして往時がよみがえるという、歴代スターさんたちが集ったすばらしい公演の数々を堪能しましたが、その日替わりで登場するキャストのみなさまを支える全日程出演メンバーの方々が、どんな思いで公演の土台を築いていったのか。さらにガラコンサート全体を司る大任であるルイジ・ルキーニ役を数多く務められた宇月颯さんは、どんな気持ちで公演に臨み、舞台を牽引されたのか。ぜひお話をうかがいたい!と願ったところからスタートした企画は、関係各所のご尽力とご快諾をいただき、宇月さん、その同期生でゾフィーの取り巻きの「チーム重臣」でヒューブナーを演じられた如月蓮さん、宇月さんと同じく月組育ちで退団同期でもあり、如月さんと同じ「チーム重臣」でシュヴァルツェンベルクを演じた貴澄隼人さん、のお三方にお集まりいただくことができました。鼎談当日はあいにくの雨だったのですが、実はたっぷりゆとりをもって予約したつもりの都内某所の予約時間が超過寸前!! 「あと10分です~!」と大騒ぎになったほど、盛りだくさんのお話が飛び出して和気藹々。実は誌面に載せたものの倍以上のお話がありましたというほど、うれしい悲鳴のなかで、お話をうかがうことができました。
 
 宇月颯さんは宝塚歌劇団時代、なんと言っても優れたダンサーとしての評価が高かった方ですが、霧矢大夢さん主演版の『アルジェの男』(月組、2011年)の終盤「泥にまみれた~」ではじまる主題歌の影ソロを務められたときから、実はものすごく歌もうまい方なんだ!といううれしい喜びが常に記憶にあり、歌ってほしいな、もったいないな……と月組の舞台を観てはいつも思っていました。ですから珠城りょうさんのトップ披露公演『カルーセル輪舞曲』(2017年)で群舞のなかから抜け出した宇月さんが「1人では飛べないこの大海原をあなたの翼になって皆で飛んでいこう」という趣旨の、鮮やかなソロ歌唱を披露したときには、もう心でガッツポーズでしたし、取材仲間から「宇月さんってあんなに歌がうまかったの?」という話題がたくさん出たときにも「もともとうまいんですよ~!」とお前が歌っているのか!?(違います!)くらいに、なんの権利もなく鼻高々になってブイブイ言わせていた、ちょっとおかしいよ自分、な記憶がいまも鮮烈です。その後の宇月さんのご活躍は言わずもがなで、ダンス、芝居だけでなく見事な歌を数々聴いていましたから、ルキーニ役のオファーがうれしくありがたかったけれども、歌中心のガラコンサートで自分がルキーニでいいのか相当に悩んだ……というお話には、なんと謙虚な方だろうと思うと同時に、だからこそ歴代経験者に交じって、堂々とルキーニを演じることができたのだなと、深く得心がいったものです。
 
 その宇月さんの同期生で星組ひと筋の如月蓮さんは、宝塚時代からムードメーカーという言葉がピッタリくる明るさを常に感じさせてくれる男役さんでした。とても印象に残っているのが、紅ゆずるさんが初めて全国ツアーで主演を務めた『風と共に去りぬ』(星組、2014年)で、直近の宙組公演では悠未ひろさんと七海ひろきさんが役替わりで演じたのに象徴される、代々綺羅星のごとき男役スターさんが演じてきたルネ役を繊細に、相手役の妃白ゆあさんを大きくつつむ包容力で演じたかと思うと、紅さんトップ披露公演の『THE SCARLET PIMPERNEL』(星組、2017年)では、王太子ルイ・シャルルにつらく当たるマクシミリアン・ロベスピエールの崇拝者で靴屋のシモンを色濃く演じるといった役幅の広さでした。しかもそんなシモンを演じていても、如月さんの舞台には宝塚を逸脱するほどイヤなやつには決して役柄がならない矜持があって、「如月さんがいらっしゃると場が明るくなる」という貴澄隼人さんのお話に納得する思いでした。「エリザベートのハモリパートの難しさを初めて知った!」という、経験した方だからこその感慨や、無観客上演になってしまった際の涙と渾身を傾けた演技といったご自身のお話だけでなく、宇月さんがいかにルキーニ役として、歴代のルキーニ役者さんに献身されたかの、同期ならではの愛あるお話ぶりにも心打たれました。
 
 そして貴澄隼人さんは、宇月さんと同じく月組育ちの男役さん。三銃士を大胆に脚色した『All for One』(月組、2017年)で、珠城りょうさん演じるダルタニアンの父親ベルトラン役で、ガスコン魂を歌った温かい美声をご記憶の方も多いと思います。なかでもなんといっても『ロミオとジュリエット』(月組、2012年)新人公演でジュリエットの父キャピュレット卿を演じたときに披露した「娘よ」のソロが忘れられません。「どうだ、うまいだろう!」になっても「語り」になりすぎても違うと思えるビッグナンバーを、娘への心情を切々と歌う感情と、ビロードのようだなといつも感じる艶やかな歌声を両立させ、特に喉の調子が整っていた東京宝塚劇場での新人公演で披露した歌唱は、私個人としては歴代キャピュレット卿のなかでも非常に優れた名唱に数えられるものだったと信じています。全日程メンバーが例えば一日だけ入る歴代スターさんの空気を感じることにどれほど配慮されたか、毎日の舞台稽古、そしてご自身の役柄シュヴァルツンベルクの極端に低いソロパートに対する秘話などを、お話されるときもきれいなお声で語ってくださいました。貴澄さんのとことん真面目だけれども面白いという宇月さん、如月さんがおっしゃる側面が、これからの俳優活動でも見えてくるといいなと期待しています。
 
 そんなお三方がそろって出演される古典ラブバトル劇『ル・シッド』の初日も7月21日。池袋あうるすぽっとでの上演で、キャスト10人のうち8人が元タカラジェンヌという座組にも期待が高まります。ちなみに『宝塚イズム43』鼎談時には写真撮影の間だけマスクをはずしていただき、感染対策に厳重に注意しての取材でしたが、そのわずかな時間にも笑顔がこぼれでて素敵でした。中村嘉昭さんが撮影してくださった、そんな瞬間の数々を切り取られたお写真(こちらのカラーを見ていただく方法はないものか……といま、青弓社編集部とも相談を重ねています)も含めて、とても貴重なお話の宝庫である『宝塚イズム43』の鼎談全文をぜひお読みいただけたらと願っています。刷り上がった書籍をごらんになった宇月さんが「たまちゃん(珠城)の退団特集にいっしょに載ることができてうれしい」と言ってくださったのも、あー宝塚愛!を感じて胸に染みるひと言でした。そんな宝塚を、これからもOGさんたちを含め様々な形で見つめていきたいと思っています。末永くどうぞよろしくお願い申し上げます。

 

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