第32回 セヴラックのヴァイオリン曲

 先日、お店であるCDを発見した。帯の背文字に「プーレ」とあったので、ヴァイオリニストのジェラール・プーレらしいということはすぐにわかった。そのうえにサラサーテ、ファリャと並んでいるので、内容もだいたい想像はついたのだが、「セヴラック」とあったのには一瞬「?」と思った。それで裏を見ると、なんとセヴラックのヴァイオリン小品が3曲含まれているという。アルバムのタイトルは『ピレネーの太陽――セヴラック、サラサーテ作品集』(キングインターナショナル、KKC-28)。
  セヴラックはドビュッシー、ラヴェルと並ぶ天才と称されたのだが、彼自身は都会生活になじめず、終生南フランスにこもりっきりだった。主に知られているのはピアノ小品で、私も舘野泉が弾いたアルバム『ひまわりの海――セヴラック・ピアノ作品集』(ワーナー/フィンランディア、WPCS-11028、11029)は気に入って聴き、あちこちに書いた(ちなみに、この舘野のセヴラックは、目下のところ彼が両手のピアニストだった最後の録音である)。
  さて、その『ピレネーの太陽』のなかにあるセヴラックのヴァイオリン曲「ミニョネッタ」「セレの想い出」「ロマンティックな歌」は、どれも非常に魅惑的である。たった3曲というのはいかにも惜しいが、ほかにも同種の作品があったらぜひとも聴いてみたいものである。また、伴奏している深尾由美子が弾くセヴラックのピアノ小品も3曲含まれている。
  それ以外の曲はファリャの「ホタ」、ラヴェルの「ハバネラ形式の小品」、サラサーテの「ツィゴイネルワイゼン」などのおなじみの作品が収録されている。これらの演奏も実に明るくしゃれていて、非常に聴き応えがある。古いヴァイオリニストのように決して形は崩さず、けれども決して薄味な感じがしないのはさすがにべテラン、プーレである。
  なお、知っている人にはくどい話かもしれないが、プーレの父ガストンはドビュッシーのヴァイオリン・ソナタを初演した人である。初演のとき、ピアノ伴奏を受け持ったのはドビュッシー自身だが、息子ジェラールが父ガストンから聞いた初演にいたるまでの秘話は月刊「ストリング」2008年8月号(レッスンの友社)に掲載されている。興味のある方は一読なさるといい。
  いずれにせよこの『ピレネーの太陽』は、酷暑のなかに吹く涼風のようなアルバムだった。

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