拙著『フルトヴェングラーを追って』(青弓社、2014年)が発売後、わずか2週間で増刷が決定した。これは、単純にうれしい。無論、初刷も第2刷も部数は少ないのだが、この出版不況のなかにあっての増刷は、ちょっと胸を張ってもいいかもしれない。フルトヴェングラーにも感謝、である。
すでに直接感想を寄せてくれた人がいるが、そのなかで最も多かったのは「フルトヴェングラーのSACDについて」だった。私と同じように、「いったいどこがいいのか、さっぱりわからない」と悩んでいたファンが、本書を読んで我が意を得たりと納得してくれたのである。続いて多かったのは、「レコード年表」を喜んでくれた人。「見ていると、次々にいろいろなことを思い出しました」「フルトヴェングラーが他界した時点で終わっているのではなく、現在まで続いているのがよかった」など。あとは「手前味噌」、自分の作ったCDの制作裏話である。私自身はそんなに面白いとは思わないけれど、でも多くの人が楽しんで読んでいるのは間違いないようだ。そうなると、フルトヴェングラー以外のCDについても、〝自作CD裏話〟などとして1冊にまとめたら受けるだろうか。何せ自前レーベルのCDは予定も含め、いまや110タイトルにもなる。そのうちの4割がフルトヴェングラーだが、それ以外はブルーノ・ワルター、カール・シューリヒト、ハンス・クナッパーツブッシュ、ポール・パレー、ピエール・モントゥー、ヘルベルト・フォン・カラヤンなどである。特にワルターは、かつてのコロンビア・レコードのプロデューサーだったジョン・マックルーアとも直接連絡がとれ、実に多くの情報を得ることができた。つらつらと思い出してみると、それなりにネタはあるかもしれない。真剣に考えてみようか。
『フルトヴェングラーを追って』をインターネットで検索していたら、「Amazon」のカスタマーレビューがたまたま引っかかってきた。ふーんと思った。投稿者はたとえば、本書の「メロディア/ユニコーン総ざらい」の項について「特に目新しいものはない」と書いている。この文章の一部はベートーヴェンの『交響曲第9番「合唱」』(GS-2090/2013年1月発売)の解説にも書いていて、内容の一部は重複するが、ユニコーンの創設者ジョン・ゴールドスミスやイギリス・フルトヴェングラー協会会長のポール・ミンチンなどの顔写真は、ゴールドスミスから提供されて初めて確認できたものだ。それ以前、国内の出版物に彼らの写真は使用されたことはないと思うし、日本国内でもこの2人の顔を認識できるフルトヴェングラー・ファンはほとんどいないと思われる。そして、最後のほうには私以外の、わずかに1人か2人の関係者しか知りえない情報も記してある。そもそも、メロディアとユニコーンについて、これだけ系統だって記した文献は過去に日本国内ではもちろんのこと、海外でさえも例はない。にもかかわらず、この「Amazon」の投稿者は「目新しいものはない」と断じている。そうなると、この人物は、それこそ化け物のようにフルトヴェングラーに関する知識と情報をもち、なおかつ内部情報さえも見透かす神通力の持ち主ということになる。近々、この投稿者と連絡がとれることがあれば、こちらから頭を下げて教えを乞うとしよう。さすが、世の中、上には上がいるものである。
(2014年2月4日執筆)
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