第5回 久禮書店、初の地方出張へ

久禮亮太(久禮書店〈KUREBOOKS〉店主。あゆみBOOKS小石川店の元・店長)

モノガタリの近況とフリーランス書店員のアレコレ

 こんにちは、久禮書店です。
 ブックカフェの神楽坂モノガタリは、開店から7カ月がたちました。開店から3カ月は、あえて広告や看板を掲げずに、慣らし運転のようなゆっくりとした営業をしていました。それでも地元のお客さんに知られ、徐々に忙しくなるにつれて、まったく未経験からスタートしたスタッフのみなさんたちも、否が応でも鍛えられ、基本業務をマスターしてきました。
 そこで、年明けからは表通りに立て看板を出して、いくつかの雑誌にも取り上げていただくことにしました。ここ数カ月、神楽坂の町自体も観光地として人気が高まっていることと相まって、カフェとしては順調に集客を伸ばすことができています。
 書店としても、カフェ部門の売り上げの上がり方よりは緩やかなものの、伸びています。開店からひと月ほどは、本好き、本屋好きのお客さんや業界の方々が話題の新しい書店をチェックしようとお越しくださった、いわばご祝儀の売り上げに支えられていました。それがひと段落した年末には停滞しましたが、年始からは、カフェ目当てで初めて来店されるお客さんが増えるにつれて、たまたま目にした書棚から選んで買ってくださることが多くなりました。書籍の売り上げ額はまだ目標には届かないものの、雑誌も新刊書籍もない棚で、希少な古書でもない既刊新本がちゃんと売れることに手応えを感じています。
 お店の売り上げ額の部門別構成比を見ると、カフェが55パーセント、書籍が35パーセント、雑貨やイベント収入が10パーセントといった具合です。今後の売り上げ計画では、イベント企画を増やし、そのテーマの連動する書籍の売り場作りや来店者への提案販売の機会を作ろうと考えています。ブックカフェでのイベント運営の実際については、あらためてお話しする機会をもちたいと思います。
 年始からの3カ月は、神楽坂モノガタリのほかにも、いくつか新しい仕事に関わってきました。新刊書店の棚作りや書店チェーンの店長会議といった慣れ親しんだ業務から、出版社経営者や出版関連の中小企業診断士の方々を前に講演、医学雑誌の記事のためのブックリスト作りといったむちゃなチャレンジまで、様々な経験をすることができました。

初の地方出張――熊本県・長崎書店へ

 そのなかでもいちばん印象深い経験になったのは、初めての地方出張です。熊本市で1889年(明治22年)以来、120年以上も続く老舗の長崎書店で、出張書店員として働かせていただいたのです。
 訪問は1月末のことでした。その顛末を思い返しながら本稿に向かっているさなかに、熊本・大分の地震が発生しました。被災された方々、そのご関係の方々に、お見舞い申し上げます。
 長崎書店のみなさんが、連日の地震でお店に被害を受けながらも、1日でも早い店舗の復旧と、その途上であっても地元のお客さんに少しでも役立とうと、できるかぎりの工夫を懸命に模索されていることを、SNSや業界紙報道を通して見ています。社長の長﨑健一さんをはじめスタッフのみなさんお一人お一人が確かな意志をもって行動されている様子に、感銘を受けています。
 ひとまずの復旧を果たした後にも、長崎書店のみなさんは様々な外的条件の変化に対応していくことになるでしょう。その過程で、私もできるかぎり協力していきたいと考えています。
 今回は、長崎書店への出張業務の報告と、そこでの棚作りの考え方をまとめたいと思います。ここに書くことが、今後の長崎書店の棚運営になんらかの役に立てれば幸いです。

 長崎書店には本店ともう1店舗、長崎次郎書店があります。今回のご依頼は、この両店舗のスタッフ一人一人と、日常業務の疑問やこれからの課題について、実際の売り上げスリップと棚を見ながら一緒に考えていくというものです。
 長崎書店のスタッフのみなさんとの勉強会は、実はこれまでに2回東京で開かれていて、この訪問が3回目になります。長﨑社長は、東京へお越しになるたびに何人かのスタッフの方々を伴い、彼らに様々な経験の機会を作っています。私も、そのような機会に何人かの方々とお会いしてきました。今回は、これまでお会いすることがなかったみなさんともお話しすることができました。
 今回の訪問に先立って、長崎次郎書店のなかに新設する特集棚の選書もご依頼がありました。「レトロ・モダン」をキーワードに、文学や芸術、建築や都市、政治や経済、個人の生活など、様々な切り口の書籍を集めたものです。このお店の特徴になるような個性的な棚を作ろうという企画です。
 この選書作業の仕上げとして私自身も現場で棚詰めに参加しながら、この棚の選書プロセス、実際の棚の並べ方、今後の棚運営という一連の流れ自体を教材として、長崎次郎書店スタッフの児玉真也さんと一緒に棚作り全般を勉強することも、訪問の目的でした。

長崎次郎書店の「レトロ・モダン」棚作り

 2日間にわたる出張業務は、1日目は長崎次郎書店の「レトロ・モダン」棚作りと同店のみなさんとの勉強会、2日目は長崎書店本店のみなさんとの勉強会と長﨑社長のご案内による熊本書店見学というメニューです。始発便で熊本に向かい、開店前の店舗で落ち合った児玉さんと私は、さっそく作業を開始しました。
 長崎次郎書店は、長崎書店の開業よりも古く、1874年(明治7年)に創業されました。その存在自体が「レトロ・モダン」という言葉を体現している趣深い建築物で、国の文化財にも登録されています。古くは森鴎外、夏目漱石、小泉八雲が通い、いまは渡辺京二さんや坂口恭平さんも常連だといいます。
 2014年に大規模なリノベーションをおこなった店舗は、歴史を感じさせる外観や店内の梁を生かしながら、シンプルでシックな書棚や壁面が現代的な雰囲気も感じさせます。品揃えの面から見ても、このお店ゆかりの文豪たちが並ぶ棚のクラシカルな印象と、若いスタッフの選書によるアートや社会運動、ライフスタイルなどの棚から発せられる同時代感のバランスが、独特の魅力になっています。

長崎次郎書店の概観

 40坪ほどの売り場は大まかに3つのゾーンに分かれています。正面入り口から見渡すと、中央から左側にかけては生活・実用といったジャンルの書籍と雑誌を組み合わせたコーナーで、低めの什器やテーブルで構成されているため実際の坪数以上に広々としています。それでも左奥の壁面には、天井までいっぱいの棚に様々な料理書籍が網羅されていて、書店としての実用性を兼ね備えています。

長崎次郎書店の棚

 店舗中央から右奥には、ギャラリー・スペースがあります。訪問した際には、絵本画家で文芸書の装画でも知られるミロコマチコさんの個展が催されていました。
 店舗の右半分は、文芸、人文、芸術、文庫といったジャンルが集結した書斎のような部屋になっています。天井まで組まれた木目調の書棚に三方を囲まれ、通りに面した側の窓の外には路面電車の行き来が見えます。この部屋の壁面、7本組みの壁棚のうち、中央の棚2本、10段のスペースに「レトロ・モダン」棚を作りました。
 長﨑社長は、以前からスタッフの児玉さんとこの棚についてのアイデアを出し合っていて、すでにたくさんの書名やキーワードが書き込まれたメモができていました。それは、建築や美術、文学、生活様式といった文化から政治・経済まで、日本の近代化を多面的に捉えようとするものでした。これをたたき台に、私が肉付けの選書をし、棚の文脈を作りながら、新しい視点も盛り込むというように進行しました。

選書と棚編集の違い

 選書のプロセスは、神楽坂モノガタリの基本在庫をそろえたときと同じように進めました。大まかに「モダニズムとは何か」という問いを意識しながら本をどんどんとスリップに書き出していき、途中で何度か仕分けすることで、だんだんと文脈を形作るという流れです。リストから書目を抜粋してみます。

〈モダンニッポンを作った男たち:大文字の「近代化」の流れ〉
『蟠桃の夢――天下は天下の天下なり』木村剛久、トランスビュー、2013年
『幻影の明治――名もなき人びとの肖像』渡辺京二、平凡社、 2014年
『電車道』磯﨑憲一郎、新潮社、2015年
『肥薩線の近代化遺産』熊本産業遺産研究会編、弦書房、2009年
など

〈モダンの先端都市〉 
『上海にて』堀田善衛、(集英社文庫)、集英社、2008年
『五色の虹――満州建国大学卒業生たちの戦後』三浦英之、集英社、2015年
『流転の王妃の昭和史』愛新覚羅浩、(中公文庫)、中央公論新社、2012年
『虹色のトロツキー』安彦良和、(中公文庫コミック版)、中央公論新社、2000年
など

〈「外遊」したモダニストたち。彼らは何を持ち帰ったのか〉
『ふらんす物語』永井荷風、(岩波文庫)、岩波書店、2002年
『「バロン・サツマ」と呼ばれた男――薩摩治郎八とその時代』村上紀史郎、藤原書店、2009年
『日本脱出記』大杉栄、土曜社、2011年
『ホテル百物語』富田昭次、青弓社、2013年
など

〈モダンを描き出した人々〉
『松本竣介線と言葉』コロナ・ブックス編集部編、(コロナ・ブックス)、平凡社、2012年
『池袋モンパルナス――大正デモクラシーの画家たち』宇佐美承、(集英社文庫)、集英社、1995年
『絢爛たる影絵――小津安二郎』高橋治、(岩波現代文庫)、岩波書店、2010年
『恩地孝四郎 装本の業〈新装普及版〉』恩地邦郎編、三省堂、2011年
など

〈神秘とエロティシズムの内奥に迫ったモダニストたち。人間の精神をモダナイズする〉
『瘋癲老人日記』谷崎潤一郎、(中公文庫)、中央公論新社、2001年
『『奇譚クラブ』から『裏窓』へ』飯田豊一、(出版人に聞く)、論創社、2013年
『日本エロ写真史』下川耿史、(写真叢書)、青弓社、1995年
『創造する無意識――ユングの文芸論』カール・グスタフ・ユング、松代洋一訳(平凡社ライブラリー)、平凡社、1996年
など

〈言葉のモダニストたち〉
『田紳有楽・空気頭』藤枝静男、(講談社文芸文庫)、講談社、1990年
『日輪・春は馬車に乗って 他八篇』横光利一、(岩波文庫)、岩波書店、1981年
『ボン書店の幻――モダニズム出版社の光と影』内堀弘、(ちくま文庫)、筑摩書房、2008年
『単調な空間――1949-1978』北園克衛、金澤一志編、思潮社、2014年
など

〈言葉を超えた科学の詩情を掴もうとしたモダニストたち〉
『新星座巡礼』野尻抱影、(中公文庫ワイド版)、中央公論新社、2004年
『雪』中谷宇吉郎、(岩波文庫)、岩波書店、1994年
『賢治と鉱物――文系のための鉱物学入門』加藤碵一/青木正博、工作舎、2011年
『ドミトリーともきんす』高野文子、中央公論新社、2014年
など

〈伝統と革新をつなぐ〉
『陰翳礼讃』谷崎潤一郎、(中公文庫)、中央公論新社、1999年
『図解庭造法』本多錦吉郎、マール社、2007年
『昭和戦後の西洋館――九州・山口・島根の〈現代レトロ建築〉』森下友晴、忘羊社、2015年
『長崎の教会』白井綾、平凡社、2012年
など

〈暮らしのかたちからみるモダニティ〉
『夢見る家具――森谷延雄の世界』森谷延雄、(INAX booklet. INAXギャラリー)、INAX出版、2010年
『理想の暮らしを求めて――濱田庄司スタイル』濱田庄司、美術出版社、2011年
『日本のポスター――明治 大正 昭和』 三好一、(紫紅社文庫)、紫紅社、2003年
『大正時代の身の上相談』カタログハウス編、(ちくま文庫)、 筑摩書房、2002年
など

〈女たちの生き方をめぐる戦いこそがモダンを推し進めた〉
『明治のお嬢さま』黒岩比佐子、(角川選書)、角川学芸出版、2008年
『『青鞜』の冒険――女が集まって雑誌をつくるということ』森まゆみ、平凡社、2013年
『小さいおうち』中島京子、文藝春秋、2010年
『大塚女子アパートメント物語――オールドミスの館にようこそ』川口明子、教育史料出版会、2010年
など

〈美とエレガンスと女性の生き方の模索・・・〉
『武井武雄』イルフ童画館編著、(らんぷの本)、河出書房新社、2014年
『初山滋――永遠のモダニスト』竹迫祐子、(らんぷの本)、河出書房新社、2007年
『美しさをつくる──中原淳一対談集』中原淳一編著、国書刊行会、2009年
『資生堂という文化装置――1872-1945』和田博文、岩波書店、2011年
など

 このようなテーマで、およそ300冊を選びました。書目としては面白いと自分自身が思えるものが並んだと考えていましたが、この棚自体が次郎書店にフィットするものになるかという不安もありました。セレクトの作業では、たとえ想像上のものでも、特定の棚やそのお客さんの存在を前提にします。この作業のときの私は、どうしても神楽坂の棚に影響されていました。
 また、机上の選書と棚編集は性格が違う作業のため、棚に詰めてみないとわからないという心配もありました。リストアップの作業には、棚の容量や仕入れ予算を気にせず自由に連想を膨らませられる興奮があります。しかし、事前に描いた図面どおりに置いてみても、そのとき感じた高揚感が伝わるような面白い棚だとは感じられないことが、たびたびあります。
 棚の文脈としては意図したとおりだけど、同じ色のカバーばかり並んでしまったり文庫が続いて細々としてしまったりと、物として並んだ姿が魅力的に映らない。その特集棚の中身ばかり箱庭的にチマチマ作り込みすぎて、隣接する他の棚とのバランスがとれていない。この本は面陳、あの本は棚挿しとあらかじめ意図していた表現方法が什器の形状に適わない。そんなことがよくあります。リスト作りとは別に、棚編集という手作業がやはり必要なのです。
 机上で選書すると、つい静的なリストとしての完成度を求めてしまいがちです。そのオールスターの書籍たちが棚挿しでカチッと勢揃いしてしまうと、かえってなかなか売れないことがあります。実際の棚で売り上げを取っていくためには、文脈の結び付きを固めすぎずに日々変化させる緩さが必要です。棚のなかには、たとえ売れなくても長く辛抱するべき本やそれほどでもない本といった濃淡が必ずあります。棚の中身を入れ替えたり、挿しを面陳にしたりという日々の試行のなかで何を抜くかを見極めるとき、やはり、その判断はそれぞれのお店や売り場が置かれた個別のコンテクストによります。
 お店の他の売り場と品物の行き来ができるようなら、返品しないで引っ越しさせればいいし、他の売り場が稼いでくれるのなら、それほど売れなくてもしっかり「見せ棚」として作り込んで固めればいいのかもしれない。返品と判断するなら、その根拠になる読者層とその来店頻度はどのくらいだろう。こういった具体的な環境を一緒に考えながら、思考と作業のプロセスを児玉さんと共有することができれば、特集棚選書と業務研修の両方を充実させられるのではないかと考えました。
 そんな思いから、今回は実際に訪問して作業に参加しました。棚をどう見栄えよく並べるかといった静的な課題は、ある程度は現場でパパッとアレンジしてなんとかなりました。難しかったのは、今後の時間の経過に対応すること、動的な要素の捉え方と伝え方でした。

棚作りの実際

 ここからは、この長崎次郎書店での作業過程を追いながら、小さな新刊書店の売り場作りを読者のみなさんと一緒に考える機会にしたいと思います。実際のところ一日で伝えきることができなかったことを含め、児玉さんに向けて書き残す意図もあります。
 そもそも、この書斎スペースの壁面には7本の棚に小説、エッセー、批評、哲学、社会、科学といったジャンルがみっちりと詰まっていました。そこから棚2本分もの書籍を抜いた真ん中に「レトロ・モダン」棚の場所を捻出することから、作業を始めました。
 棚を見渡して売れていないものを抜いて手っ取り早く圧縮することもできますが、そうやって文芸棚と人文棚をギチギチに詰めてしまうと、翌日からの棚回しがしづらくなります。
 こういった場合、私のやり方はこうです。減少する棚段数や並びに合わせて、サブ・ジャンルの配置や分量を割り当て直します。まず文芸棚なら「エンターテインメント小説」「現代文学」「文芸批評」「エッセー」、人文棚なら「哲学」「社会」「歴史」といった塊を作り直したうえで、「レトロ・モダン」棚が入った場合に隣接する部分との接合を考えながら、新しい並び順を決めます。
 意図した並び順に書籍を引っ越す前に、サブ・ジャンルごとの分量を調整します。各サブ・ジャンルの軸になる定番書籍は残し、取り替えて差し支えなさそうなものから抜いていきます。このとき、著者やテーマに関する知識と、スリップに書いておいた入荷日付や奥付の日付、刷り数といった情報を合わせて判断していきます。毎日の新刊チェックや品出し、返品作業、売り上げスリップのチェックが、こうした判断の土台となります。
 こうしてサブ・ジャンルごとのキー・ブックと肉付け本の役割分担と比率を把握しておくと、「より正しく抜く」判断が容易になり、毎日の棚補充がスムーズになります。また、小さな売り場であっても、多様なテーマに目配りした充実した棚作りができます。このようなバランスのとり方について児玉さんと話し合いながら、棚を縮めていきました。
「レトロ・モダン」棚の近くには、以前から「郷土の本」棚が、こちらも棚2本ありました。次郎書店ゆかりの作家たちの作品や、熊本や九州の歴史・民俗に関する研究を集めた棚です。この棚のセレクトは、ただご当地本を集めたものではなく、九州から日本の近代化のあゆみを振り返るという視点が感じられます。つまり、これから作ろうとしている棚とテーマ設定も似ていて、選書も少し重なっていたのです。そのため、この2つの特集棚の文脈を接続して、両方の棚を行き来しながら全体が伸び縮みできるように整理しました。

 このように、長崎次郎書店での今回の棚作り業務は、「レトロ・モダン」棚の設営よりも、一軒の小さな書店の棚をバランスよく運営していく手法を売り場全体に当てはめてみるという作業が多くを占めることになりました。書店の売り場は、規模の大小にかかわらず全体が連想しているものなので、当然の結果ともいえます。
 この翌日におこなった長崎書店本店での勉強会は、大きな売り場をチームで運営するためのコミュニケーションと、それを品揃えに反映させる店舗レイアウトについて再考する機会になりました。規模や性格が大きく異なる2つのお店の書棚を実際に触れ、その対比から感じた事柄を、様々な売り場で汎用性のある方法論として整理し共有できないかと、いま考えています。

〈理想の書店〉と〈多様な手法〉

 今回の訪問では、講師として出向いた私のほうが、長崎書店のみなさんに本当に多くのことを学ばせていただきました。長﨑さんとスタッフのみなさんの仕事に対する誠実さや、人に向き合う素直さに感銘を受けたのです。長﨑さんが若いスタッフをまず人として尊重し、学ぶ機会を惜しみなく提供すること、そこから育まれるスタッフ一人一人の仕事への矜持と、それをもって地元の人々の役に立とうと思う献身。その信頼関係を目の当たりにして、うらやましく思います。多くの新刊書店チェーンの現場でなぜこのように人を育てることを基礎にして仕事を構築できないのかを考えたいとも思います。
 たしかに、長﨑さんの経営者としての相当の覚悟と、商売を通して地元の人々に何ができるかという公共の精神が、長崎書店のチーム作りとホスピタリティーを支えていると感じます。同じように、それぞれの理想をもって書店を続けていこうとする人々に何度も出会いました。ただ、実際の棚作りにおいて十分なノウハウを持ちえていないと感じることもあります。そういった想いに具体的な手法を接続するといった役割を、私もその一部でも担うことができるのではないかと考えています。
 もちろん、私の手法でみんな棚を作れということではなく、元書店員や現役書店員たちそれぞれの仕事論を持ち寄る場を作れないかと考えています。まだ思いにすぎないのですが。

 次回はまた神楽坂モノガタリに戻り、イベントのことなどをご報告したいと思います。

 

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