久禮亮太(久禮書店〈KUREBOOKS〉店主。あゆみBOOKS小石川店の元・店長)
こんにちは、久禮書店です。
今回は、フリーランスとして初めていただいた仕事についてお話しします。
東京都の昭島市中神町に、マルベリーフィールドというブックカフェがあります。私はこの店の書棚を作るという仕事をいただき、選書・発注から、棚に並べる作業までを任せてもらいました。また現在も継続して、棚のメンテナンスや品揃えの変更をしています。
マルベリーフィールドは、サンドイッチやスープ、ケーキなど、手作りの食事にこだわったカフェでありながら、店の半分は新刊書店でもあるという、個性的な店です。JR青梅線の中神駅を出てすぐ、ロータリーに面した便利な立地にあるこの店は、駅前唯一の書店として、近隣のお客様に日常的に利用されています。大手取次会社の取引口座をもっていて、雑誌はもちろん、全ジャンルの新刊配本もあります。つまり今回の仕事は、カフェに似合うおしゃれな書棚を作るというだけでなく、新刊が売れる棚を作り、運営していくことも考える必要がありました。
書棚は、店の内装に溶け込むシックな茶色に塗装されていますが、新刊書店で多く導入されているのと同型のスチール什器で、一般的な規格と同じ80センチ幅の棚で6段組みのものが10本、店奥の角地にL字の壁面に沿って置かれています。書籍を棚にぎっしり背挿しにするのではなく、表紙・カバーを見せる面陳を多用してゆとりがある置き方をしていますが、1,000冊以上は在庫できます。
今回はひとまず、この10本の棚のうち5本を「セレクト棚」とすることにしました。いくつか掲げたテーマやキーワードに沿って本を組み合わせメッセージを伝えるような、「文脈棚」とも言われるかたちです。550冊ほどを選び、既存の棚をほぼすべて入れ替えることになりました。
残りの半分は、おもに文芸書の単行本や文庫、コミックが並んでいる棚です。こちらは、一般的な書店の並び方のままにしておくことにしました。便利な駅前書店というこの店のもう一つの役割からすると、普通の棚を普通のやり方で、ちゃんと手をかけて回すことができれば、それだけでいいという面もあります。
セレクト棚をどう作るか。まず品揃えの核となる本をリストアップしました。店の大まかなイメージやお客様の雰囲気は踏まえましたが、文脈棚の小テーマのようなものは、先には考えませんでした。これまでの経験のなかで長く売れていた本、これからも売れそうな本、最近の新刊からピックアップしたものなど、1冊1冊が新刊書店でいまでも売れるものであることを優先しました。
そうしてふくらんできたリストを整理しながら徐々にできたグループにタイトルをつけて、それを棚の小見出しのようにしました。いくつかご紹介します。
「親子の時間」
酒井駒子『よるくま』(偕成社、1999年)
梨木香歩『西の魔女が死んだ』(新潮社、2001年)
信田さよ子『母が重くてたまらない――墓守娘の嘆き』(春秋社、2008年)
アレグザンダー・シアラス/バリー・ワース文、中林正雄監修『こうして生まれる――受胎から誕生まで』(古川奈々子訳、エクスナレッジ、2013年)
など
「私は私の身体を知らない」
山口創『手の治癒力』(草思社、1999年)
谷川俊太郎/加藤俊朗『呼吸の本』(サンガ、2010年)
三木成夫『胎児の世界――人類の生命記憶』(中央公論社、1983年)
バーバラ・コナブル『音楽家ならだれでも知っておきたい「からだ」のこと――アレクサンダー・テクニークとボディ・マッピング』(片桐ユズル/小野ひとみ訳、誠心書房、2000年)
など
「成熟と死について考える」
アリス・マンロー『ディア・ライフ』(小竹由美子訳、新潮社、2013年)
ヨナス・ヨナソン『窓から逃げた100歳老人』(柳瀬尚紀訳、西村書店、2014年)
エリザベス・キューブラー・ロス『死ぬ瞬間――死とその過程について』(鈴木晶訳、中央公論新社、2001年)
伊藤比呂美『犬心』(文藝春秋、2013年)
など
「都会暮らしもサバイバル」
ブラッドリー・L・ギャレット『「立入禁止」をゆく――都市の足下・頭上に広がる未開地』(東郷えりか訳、青土社、2014年)
ジェニファー・コックラル=キング『シティ・ファーマー――世界の都市で始まる食料自給革命』(白井和宏訳、白水社、2014年)
ナンシー・ウッド『今日は死ぬのにもってこいの日』(金関寿夫訳、めるくまーる、1996年)
坂口恭平『独立国家のつくりかた』(講談社、2012年)
など
「人生の位置エネルギーと運動エネルギー」
クリストファー・マクドゥーガル『BORN TO RUN 走るために生まれた――ウルトラランナーvs人類最強の“走る民族”』(近藤隆文訳、NHK出版、2010年)
ロバート・M・パーシグ『禅とオートバイ修理技術』上・下(五十嵐美克訳、早川書房、2008年)
リー・ベンデビット-バル『地球の瞬間――ナショナルジオグラフィック傑作写真集』(日経ナショナルジオグラフィック社、2009年)
吉村和敏『「イタリアの最も美しい村」全踏破の旅』(講談社、2015年)
など
「サイエンスとアートが世界を再魔術化する」
近藤滋『波紋と螺旋とフィボナッチ――数理の眼鏡でみえてくる生命の形の神秘』(学研メディカル秀潤社、2013年)
結城千代子/田中幸著、西岡千晶絵『粒でできた世界』(太郎次郎社エディタス、2014年)
ダウド・サットン『イスラム芸術の幾何学』(武井摩利訳、創元社、2011年)
高野文子『ドミトリーともきんす』(中央公論新社、2014年)
など
「世界の仕組みを大掴みにする」
マテオ・モッテルリーニ『経済は感情で動く――はじめての行動経済学』(泉典子訳、紀伊國屋書店、2008年)
ジェームズ・M・ヴァーダマン/村田薫編『アメリカの小学生が学ぶ歴史教科書――EJ対訳』(ジャパンブック、2005年)
小林弘人/柳瀬博一『インターネットが普及したら、ぼくたちが原始人に戻っちゃったわけ』(晶文社、2015年)
「世界の歴史」編集委員会編『もういちど読む山川世界史』(山川出版社、2009年)
など
「お金と時間・人生をドライブする両輪」
國分功一郎『暇と退屈の倫理学 増補新版』(太田出版、2015年)
メイソン・カリー『天才たちの日課――クリエイティブな人々の必ずしもクリエイティブでない日々』(金原瑞人/石田文子訳、フィルムアート社、2014年)
ロバート・キヨサキ『改訂版 金持ち父さん 貧乏父さん』(白根美保子訳、筑摩書房、2013年)
マイク・マグレディ『主夫と生活』(伊丹十三訳、アノニマスタジオ、2014年)
など
前職で日々、書籍の売り上げスリップをチェックしていました。まとめ買いしてくださった際には、そのスリップを束にしておき、あとからその買い方に対してキャプションをつけてためておくという作業を続けていました。今回の文言の多くは、そのときの言葉を使っています。
これらのグループは、できるだけあいまいな括り方にしておきました。それは、メッセージや文脈のもとに棚が固着してしまうことを避けたいと思ったからです。文脈棚のテーマの数々を更新していくことや、既存のテーマに沿わない本を日々組み込んでいく作業は、日常業務のなかでは滞りやすいものです。それに、買ってもらうための棚は、売れ方の予測や売ろうとする勢いが冊数や置き方で表現されているべきだし、お客様の反応次第で変化していくべきだと思ったからです。
しかし、そのようにして並べてみた棚は、店から期待されていたほどにカフェの雰囲気を決定づけるような第一印象を演出できていたかというと、そうではなかったと思います。自分が想像したより、少し地味だったという気もしています。大判のビジュアル本ばかり飾るのも安直かと思い、あえて背挿しにしておいた『新・世界でいちばん美しい街、愛らしい村』(MdN、2015年)や『世界で一番美しい村プロヴァンス』(マイケル・ジェイコブズ文、ヒュー・パーマー撮影、一杉由美訳、ガイアブックス、2013年)などの写真集が、早い時期に売れてくれました。
また、シリーズものの時代小説文庫やビジネス・スキル本の定番が売れて、セレクト棚が動いていない日もありました。そうなると、もっと気取らない実用書や親しみがある作家の小説を選んでおくべきだったかと、逆の方向にも反省してしまいます。
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店のオーナー勝澤さんは、いつも柔軟な姿勢で私の意見を聞いてくださいます。私が店の客層を理解するまでの試行錯誤の期間を、何も言わずに許容してくださっていると勝手に解釈して、ありがたく思っています。それだけに、私自身がこの店にあった品揃えを、今後の継続的な関係のなかで見つけなければいけないと思います。
カフェのための書棚か、本屋のための書棚か。このバランスのとり方は、選書を始めた当初からいまも、悩み続けています。カフェの雰囲気や居心地、インテリアに貢献するような格好いい選書か、近所の本屋として、格好よくはないし名著でもないけれどつい買ってしまう本がちりばめられた、気のおけない棚を作るか。どちらの要素も大事です。このさじ加減をどうするか。店内の場所を使い分けて表現する必要もありますし、今後の売れ方に対応して変化していく必要もあります。
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このバランスについて考えることは、カフェではありませんが、前職のあゆみBOOKS小石川店でも同じでした。
店に入ってすぐのメイン平台は、まず書店の顔となるようなインパクトをもった平積みや面陳、店の雰囲気を伝えるような組み合わせを見せる場所だと考えていました。また、お客様よりちょっと先に、これが面白いと思いますよと提案する場所だと思っていました。
すでに市場で売れた結果が出ている本、いまこれが売れているよという後追いのランキング情報を提供することは、他の棚でもできる。もちろんメイン平台にも旬のベストセラーを置きますが、そこにちょっと意外な本を組み合わせることを考えていました。まだあまり売れていない本でも、ポップをつけたりして持ち上げるのではなく、ベストセラーと同等の扱いで、しれっと隣に置いておく感じです。各ジャンルの棚前に平積みしていては2、3冊売れて止まってしまうかもしれないけど、10冊くらいに伸ばしたいというような中ヒットを量産する試みです。結果的に、お客様にこの店ならではという新しい発見をしてもらう面白さにもなっていたと思います。
一方で、深夜にジャージ姿で行ってもたいして恥ずかしくなくて、とりあえずなんでもいいからなんかくだらないものが読みたいというときにも、何か買えるような雰囲気のコーナー作りも必要でした。そのバランスを、棚や店全体を使い分けて表現しようと試してきたのが、あゆみ小石川での仕事だったのです。
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マルベリーフィールドでも、これからの売り上げスリップを見ながら、ちょうどいいバランスを求めて提案していきたいと思っています。
ただ、このバランスを考えたときにとても大事な前提があります。まず気軽にふらっと入店できるということです。カフェでお茶をするつもりがない人も、通りがかりに足を止めて、なんとなく入店してもらえるという本屋らしい開かれた店構えが必要なのです。
そうはいっても、週刊誌や漫画誌の什器を外に出せばいいというものではありません。マルベリーフィールドでは、店外テラス席のすてきな雰囲気が損なわれてしまいます。普通の新刊書店ではそうすることが一般的ですが、多くの書店にとっても、それが正しいのか考え直す余地があると思います。
この課題も、前職から考え続けていることです。雑誌の新刊を習慣的にチェックする人がどんどんと減っていることは明白で、雑誌に支えられた店づくりから変化しなければならないことは、どの新刊書店にも言えます。いつも同じ雑誌が店の顔になっていると、興味がない人にとっては、店自体が風景に埋没しているのではないかとさえ考えてしまいます。本屋にふらっと入る習慣をもたない人がうっかり入店してしまうような店構えと、本好きでなくてもつい買ってしまう、それでいて本の世界の入り口になるような商材を考える必要があります。
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前職で見つけた答えの一つは、アウトレット・ブックスのコーナーを店の外と中に作り、動線をつなげることでした。
アウトレット・ブックスとは一般的にはバーゲン本(B本)と呼ばれるものですが、もう少し現代的な語感をもたせたくて、そう呼んでいます。古書ではなく、様々な事情で出版社から専門業者へ直接卸す新品です。しかし、ほとんどの新本流通に適用される再販売価格維持契約からは除外されており、書店が自由に値付けして販売できます。
多くの場合買い切り仕入れのため、書店は返品できないリスクを負いますが、格安で買い付けたうえで粗利を大きく設定することもできるという大きなメリットもあります。新刊書店で、書籍の仕入れ資金の負担を軽減しながらも、文房具や生活雑貨ではなく書籍にこだわった品揃えで利益率を上げるためには、もっと注目されるべき分野だと思います。
また、買い切る、売り残しが少ないほど儲かる、価格設定のうまさ次第で売れ行きが変わるというのは、商売の原点に回帰するようなシンプルさがあり、すがすがしい気分がします。つまり、本屋として日頃鍛えている選書眼が儲けにつながるというダイナミックな喜びを感じられるのです。
そのうえ新本のバーゲンセールという催し自体がまだ一般的ではないため、目立つ場所で展開すれば、多くの人の興味を引くことができます。ただ、店の雰囲気に安っぽい印象をもたせない工夫が必要です。肝心の新刊書籍に割高感をもたれて売れなくなることにも注意しなければいけません。
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マルベリーフィールドでも、アウトレット・ブックスを販売しています。店の雰囲気に合うアート・ブックや洋書絵本を中心に、雑貨のような感覚で見て楽しめて、気軽に手に取ってもらえるようなセレクトをしています。まず見栄えのよさがあり、そのうえで、いいものが安いというお楽しみもあるという狙いです。店のオーナーである勝澤光さんにあゆみBOOKSの事例を紹介したところ、すぐに私の意図を読み取ってくださり、テラス席と入店してすぐの棚にコーナーを作ってくれました。
選書と調達は私が担当しました。仕入れ先は、おもに神保町の八木書店です。老舗古書店であり、新刊取次とバーゲン本卸問屋も兼ねる八木書店の本社にはバーゲン本の店売所があり、膨大な在庫から現物を手に取って選ぶことができます。私は、和書バーゲン本はこちらから、洋書は八木書店ともう一社、Foliosという業者から仕入れています。
一カ月分と見込んで在庫を仕入れて販売し始めましたが、2週間後には最初の追加納品をするほどのいい反応があり、安堵しています。
ここまでお話ししてきた選書やアウトレット・ブックスの企画は、マルベリーフィールドがこれまでも独自の方法でお店を変化させてきた経緯があったからこそ実現したものです。勝澤さんは、初対面の私が提案したものを、とりあえずやってみようという柔軟な姿勢で全面的に採用してくださいました。また、すぐにお客様の反応を取り入れて、改善点を提案してくれます。
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そこで、この店の成り立ちについて、少しお話しします。このお店が、小さいながらも、というより小規模だからこそ機敏に、商売の形を変化させてこられた経緯はとても興味深く、本屋をやるうえでも参考にしたいと思うからです。また、その柔軟さを模倣しようとしたときに、書籍の流通制度や取引条件の問題を考えざるをえないと気づかされるからです。
ここからは、直接お聞きしたことと、私が見て推測したことも交えてお話しします。勝澤さんの考えとは違うこともあるかもしれません。
このお店はもともと勝澤書店という新刊書店として、勝澤光さんのお父様が始められたそうです。現在も、店舗はもちろん、外商部もあり、地元の書店として長く営業しています。その店をブック・カフェに方向転換するきっかけになったのが、「春樹とタケノコ」のエピソードです。
村上春樹の『1Q84』(新潮社、2009年)の単行本が刊行され、発売直後からあちこちで売れまくっているさなか、勝澤書店への配本は、多くの個人経営書店がそうだったように、ほんの数冊だったそうです。怒り心頭の勝澤さんは、ちょうどそのころ、縁あって地元の竹林の手入れを手伝ったおりに仕入れた大量のタケノコを、いっそ平台で売ってやれと思い立ったそうです。試してみたところ、これが飛ぶように売れました。それをきっかけに、地元昭島の野菜を売り場に置くようになったそうです。それも順調に売れていきました。それでも売れ残る野菜も出てきます。そこで、それを調理して提供しようと思い、キッチンを増設し、客席を配置し、カフェとしての内装を整え、現在の業態になったのだといいます。
現在の店は、たとえ書棚がなくても、すてきなカフェとして、地元のお客様に愛用されているように見受けられます。それでも、勝澤さんは書店としての役割を大切にされているようです。実際、常連のお客様がふらりと入店しては、カフェの客席ではなくレジへ来て、定期購読の雑誌や注文品の書籍を買い、ちょっとおしゃべりをして帰るというような場面を何度も見ました。
書店の薄利を補うために、カフェを併設して飲食メニューの高い粗利を得るというモデルがよく話題になりますが、そう簡単ではないと、勝澤さんは言います。
実際、マルベリーフィールドのカフェ部門は順調に伸びているそうです。しかし、カフェの来客が増えると、それだけ食事の仕込み作業が増えます。書籍のように、仕入れて棚に補充すればいいというふうにはいかない。繁盛してくると、思った以上に忙しく、書店部門にかけられる時間がどんどんなくなってしまうのだそうです。
それでも、駅前唯一の書店としての役割は重要ですし、売り上げもあります。また、旬の新刊本をじっくり読める、買えるということは、カフェの人気を支える面でも大切な要素なのです。
一方で、飲食メニューは価格設定のうえで粗利が高いとはいえ、ブックカフェでは、お客様はゆっくりと読書をします。つまり、いわゆる回転率は低い。そこを補う役割を果たしているのが、テイクアウトのサンドイッチ販売だそうです。このサンドイッチは、発売からすぐに人気商品となり、お昼前に完売することも多いといいます。この人気商品をきっかけに、デパートの催事に出店する機会を得たというほどです。また今度は、テイクアウトの盛況に組み合わせて店のテラスで書籍のコーナー作りを企画したりと、様々なアイデアを次々に実行しています。
書籍販売とはあまり関係がないこの話を持ち出したのは、このような商売の個別の事例にこそ学びたいと思うからです。勝澤さんがどのように日々のやりくりをし、変化に対応してきたかを聞いたり想像したりすることは、とても楽しいことでした。書店が成功するためのビジネスモデルだとか法則ではなく、中神のお客様と勝澤さんがやりあった、この店ならではという物語が、とても興味深かったのです。書籍の販売もまた、それぞれの店ごとが抱える様々な事情によって、多様なあり方があるはずだと気づかされました。
勝澤さんが店の空間を自在に編集してきた軌跡を垣間見て、では店をもたない私がそこから学んで模倣できることはないかと考えました。そこで、私が本を携えて、新しい店づくりを考えている店に飛び込んでみてはどうかと思ったのです。書店ではないが書籍を扱いたいと考えている店や、本に興味をもってくれそうな人の集まる場所がたくさんあります。
多種多様なジャンルの本が、それぞれにいちばん求められる場所で面白そうに盛り付けられる方法を考えて、そんなあちこちに出張している本たちを束ねる元締めのような役回りを私がするのはどうだろうかと、夢想するのです。
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実際、カフェや雑貨屋、美容院など、本を扱いたいという声をよく聞きます。しかし、仕入れにかかる煩雑な事務作業や、取引条件、在庫リスクなど、様々な制約があり、なかなか実現できません。私たち書店員は、日常的にそれらと向き合ってきました。では、いろいろな店の条件に合わせて、選書をして調達までする選書家兼仲卸業というやり方もあるのではないかと、最近は考えています。実際、児童書のなかでは、そういう機能を果たしている企業があります。
児童書を中心とした出版から絵本の専門店までを経営しているクレヨンハウスでは、関連事業として子どもの文化普及協会という取次会社を運営しています。この企業は、新刊書店以外の様々な業種の店舗と取り引きしていて、絵本を卸すだけでなく、選書や陳列、販売方法のコンサルタントもしています。取次業としては、保証金を取らず、買い切りではありますが大手取次よりも低い掛け率の好条件で、私のような小さい取り引き相手に対してもオープンな形で、取り引きされています。
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次回は、久禮書店の出張本屋「あちこち書店」の1回目の模様についてご紹介します。地元、武蔵小山のキッズ・カフェALL DAY HOMEの店内にスペースを借りて、洋書絵本のアウトレット・セールと和書新本の絵本を組み合わせた棚を作りました。今回は1日限定のお試し開催でしたが、今後の継続に向けて、勉強になることがたくさんありました。
それでは、また来月。
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