「食」から広がる世界――『もんじゃの社会史――東京・月島の近・現代の変容』を書いて

武田尚子

 「もんじゃ」を切り口に、「食を考えるおもしろさ」を味わっていただきたいと思い、この本を書いた。私たちの頭のなかのグルメ・リストをチェックしてみると、なぜか地名とフードが一緒になってインプットされている場合が多いことに気がつく。月島もんじゃをはじめ、仙台の牛タン、宇都宮の餃子、尾道ラーメンなど、全国レベルで知られているもの、地方レベルで浸透しているものなどさまざまだが、たぶん誰でもすぐに2、3は名前を挙げることができるだろう。ローカルな地名がつくと特別の味わいであるように思われ、食欲をそそられる。
  このようなタイプのローカル・フードは、かつて高度成長期に生協などによって流通ルートが開かれて、地方の農産物が都市の消費者に直接届けられるようになった産直品タイプのローカル・フードとは異なる性格のものである。また、おみやげとして持ち帰る地方名産の郷土菓子とも異なるものである。グルメの時代に新たに登場してきたのは、ある程度の規模の都市で、そこの飲食店に腰をおろして味覚を楽しむローカル・フードである。供される空間やローカルな雰囲気もエンジョイする大事な要素である。だから、アクセスが不便な田舎のローカル・フードではなく、アクセスがいい土地のローカル・フードが有名になりやすい。グルメの時代に登場してきたローカル・フードは、利便性がいい都市におけるローカル・フードとしてプロデュースされたもので、外部から集客するための「媒体(メディア)」として、効果を発揮している。
  「ローカル」と「外部」を媒介しているローカル・フードは、詳しく考えてみるに値する味わい深い食品である。「月島もんじゃ」もこのようなローカル・フードの1つである。単純に昔ながらのローカル色を維持しているだけでは、メジャーにはなりにくい。適度にローカルなテイストを残しながら、外部から来た人をキャッチする何か「旨み」が必要とされる。つまり、ローカル・フードは、もともとその地域に根ざす何か由来があったわけだが、オリジナルなテイストは徐々に変化し、異なる「旨み」が加わり、メジャー化にいたるという、変化の過程があったと考えられる。この本で描きたかったのはその変化の過程であった。
  現代社会は、それぞれの人の好みに合わせた消費が楽しめる高度消費社会である。「食」に関する情報量は増え、流通ルートも多様化し、「食」の「媒介」機能は高まっている。「食」は、高度消費/レジャー社会の重要なアイテムの1つとなっていて、「食」に対する現代人の関心をじょうずに利用することが重要になっている。「食」の「媒介」機能の高まりは、情報・商品の流通、交通機関など社会的基盤の整備、ツーリズム/ビジネスによる人の移動の活発化など、マクロ社会の変化によって促進されている。私たち個々人は、このような環境のマクロ社会のなかで、「食」について恒常的に刺激されつづけている消費者であり、情報を取捨選択して、自分なりの食の楽しみの世界を創り出しているフード・ハンターでもある。「味わう」ことが、生活の楽しみを増す時代に私たちは生きている。味わうことによって、身体にエネルギーが満ち、活力が充実する。自分をとりまく社会についても関心が高まる。一石ン鳥の「食」の楽しさを堪能するメニューはいろいろある。『もんじゃの社会史』を読んだ方々の楽しみの世界がひろがるとうれしい。