石井敦先生に捧ぐ ――『人物でたどる日本の図書館の歴史』を書いて

小川 徹/奥泉和久/小黒浩司

 近代日本図書館史研究の先駆者である石井敦は、いまから20年ほど前に『簡約日本図書館先賢事典(未定稿)』(1995年)という本を自費出版した。石井はその「まえがき」で、同書を編んだ目的を次のように述べている。

    個々の図書館でひたすら利用者へのサービスに尽してきた人、資料の重要性を深く認識し、周囲の無理解にもめげず、散逸しそうな資料を発掘し、収集し、組織化してきた人たちなど、100年以上の歴史をもつ日本の図書館界にはたくさんいたのである。こういう先輩たちの仕事をもっと明らかにし、司書の社会的評価を獲得すると共に、これから図書館員を目指す人たちを増やしたい。また図書館にこういう専門的な人が必要なことを証明したい。

 石井はさらに次のようにも述べているが、それは彼の図書館史研究が、図書館とそこで働く人々に対する敬意によって立つものであることを示している。

    もっと積極的に先輩たちの業績を見直し、どれだけ地域の文化発展に寄与してきたか、学生や研究者たちのために役立ってきたか、同業者として評価すべきだろう。自分たちの先輩の仕事を無視することは、まさに天に唾するもの、自らの仕事の無視でもある。自分の仕事に誇りをもつならば、先輩たちの仕事にも同様、目を向けて然るべきだろう。今日からみれば、無意味に見える仕事も、当時の厳しい環境の中では心血を注いで取組んだものもあったこと、そこには利用者への限りないサービス精神の発露していたこと、資料(書物)の社会的価値を洞察し、信念をもって官憲から守ってきたことなどなど、丹念に掘り起こし、再評価すべきだと思う。

 今日、図書館をめぐる環境には厳しいものがある。それだけに、地域社会のなかに図書館を定着させようとした先人の努力の跡を掘り起こし、そこから何かを学び取る作業をゆるがせにしてはいけないと考える。
 私たち3人が『人物でたどる日本の図書館の歴史』をまとめた原点はここにある。その思いを汲み取ってくだされば幸いである。