『図書館を学問する』本はどれくらいの図書館に所蔵されているのか?――『図書館を学問する――なぜ図書館の本棚はいっぱいにならないのか』を出版して

佐藤 翔

『図書館を学問する』などという書名の本であるからには、きっと日本中の図書館が購入し、所蔵(図書館が受け入れ、利用可能な状態にすること)してくれるにちがいないと期待するのは、著者として自然なことでしょう。本書中でも頻繁に引用する『日本の図書館 統計と名簿』(日本図書館協会)という資料の2023年版(執筆時点での最新版)によれば、2023年時点で、1,359以上の市区町村に図書館があり、1自治体に複数の図書館があることもあるため、市区町村立図書館の総数は3,246館にものぼります。そのほかに47都道府県すべてに都道府県立図書館があります。また、約800の大学、約300の短期大学にも図書館があり、こちらも1大学が複数の図書館をもっていることもあるため、その総数は1,800館以上。加えて全国1万8,000校以上の小学校、約9,900校の中学校、約4,800校の高等学校にも、法律上すべて学校図書館が置かれているはずです。そのほかに国立図書館や専門図書館など、世に「図書館」とされる存在はあまたあります。さすがに学校図書館が本書を買ってくれるかはわかりませんが(中学生・高校生ならぜひ読んでほしいところです。図書館学を志す人口を増やすためにも!)、市区町村立などの公立図書館や、大学の図書館ならば、きっとその多くが買ってくれるにちがいない。分館まで含めてすべてに置かれるのは無理でも、各自治体・大学で1冊ずつ買ってもらうだけで3,000冊くらいにはなるはずで、「まいったなあ、これはきっとすぐに増刷がかかることになるぞ」などと、出版前にはもくろんでいました。いわゆる捕らぬ狸の皮算用というやつです。
 その後、出版から約1カ月が過ぎましたが、いまのところは増刷のお声はいただいていないようです(1月23日の執筆時点。ところが、おかげさまで2月6日に2刷ができました!)。「おかしいな、いまごろすべての図書館が買っているはずでは?」と疑問を抱き、本書の趣旨にものっとって、さっそく各図書館の所蔵状況を調べよう……と思ったのですが、実はこれが意外に難しい。大学図書館については簡単で、全国ほとんどの大学図書館の所蔵資料をまとめて検索できる「CiNii Books」というサービスが存在します(いずれ論文や研究データなどを探せる「CiNii Research」という仕組みに完全統合される予定)。そこで所蔵を調べてみると……2025年1月23日時点の所蔵図書館は10館。10館!? 何かの間違いではないでしょうか。筆者の所属の同志社大学にも入っていないし、図書館情報学研究の拠点である筑波大学とか慶應義塾大学、愛知淑徳大学とか九州大学とかにもないではないですか。え、実はみんな僕のこと、嫌いだった……? ただ、たまたま現地にうかがって、蔵をこの目で確認した大学図書館なども、「CiNii Books」上ではまだ所蔵していないことになっているので、データの反映が遅れていたり、購入・準備に時間がかかったりしている大学もあるのかもしれません。そうであってほしい。
 公立図書館のほうはどうかというと、大学図書館に比べると所蔵を調べるのが容易ではありません。「CiNii Books」のような、多くの図書館の所蔵状況をまとめた蔵書目録「総合目録」が、公立図書館の場合には存在しないからです(一部の図書館だけ入っているものはありますが)。大学図書館の場合は、自分の図書館でもっていない雑誌に掲載された論文のコピーを依頼するとか、もっていない本をほかから取り寄せたいという要望が頻繁に発生することもあって、総合目録が発展してきた歴史があるのですが、公立図書館の場合は地域のネットワーク内で完結したり、国立国会図書館を頼ることが多いこともあって、全国的な総合目録が発展してきませんでした。そのためこういうときは不便だったのですが、2010年に「カーリル」という、全国の図書館がオンラインで公開している検索システムを横断的に検索して、所蔵状況をまとめて閲覧できるサービスを株式会社カーリルが運用開始し、全国の所蔵状況を調べることができるようになりました。ただ、総合目録がデータ自体、統合して作られているのに対し、横断検索はつど、各図書館の検索システムに問い合わせをかける負担が発生することもあってか、カーリルでは全国をまとめて探すことはできず、都道府県ごとのブロックでしか所蔵を調べることができません。したがって、仕方がないので47都道府県分、自分の本があるか検索してみました。エゴサーチここにきわまれり。
 カーリル検索の結果、1,359自治体、3,246館の市区町村立図書館中、本書を所蔵していたのは220自治体、252館でした。自治体単位での所蔵率は16.2%、図書館単位では7.8%。思ったほどには伸びていないかあ……もうちょっと所蔵しているものかと思ったのですが。ちなみにカーリルでは各図書館での貸出状況もわかるのですが、本書の貸出率は56.0%でした。新刊書のわりには低いともみるか、ノンフィクションのわりには高いとみるか。著者本人としては後者の立場をとりたいです、けっこう借りられているようだしぜひ所蔵しましょう!>図書館関係者各位。
 もっとも、出版から1カ月を待って調査してみましたが、おそらく買うつもりがないから所蔵していないのではなく、単にまだ納品あるいは準備ができていないだけ、という図書館もありそうだと思っています。そうでないと、都道府県別にみたときの京都府の所蔵率が低すぎます。21市町村中、2自治体しか買ってくれていない。なんなら日頃、図書館司書課程の教員としていろいろとお世話になっている、具体的には毎年ご挨拶にいっている図書館とか、研修事業を担当したことがある図書館とか、審議会委員をやったことがある図書館とかで、買ってくれているのが1館しかない。さすがにそこまで嫌われているということはないだろうと思うので……思いたいので、おそらくこれは新刊が図書館で提供されるスピードに、図書館によって差があるのではないか、という仮説が成り立ちます。発注から納品・受け入れ手続きにかかる時間に差があるのではないかとか。それを検証しようと思うと、例えば同じ時期に出た別の本の場合はどうなんだろうとか、もう所蔵している図書館/いま所蔵がない図書館で何か差があるのだろうかとか、もし検索システムで本の受け入れ日がとってこれるなら、個別の図書館の検索システムを使って受け入れ日のデータを取得してみて、館によって刊行→受け入れまでに系統的な(たまたまじゃなく、毎回発生する)差があるのかを調べる、なんてことが考えられます。
 そんな感じで、発端はごく素朴な疑問(自分の本って図書館にどれくらい所蔵されているのか)であっても、実際に調べて傾向をみているうちに様々な仮説が浮かび、それをまじめに検証していくと、いつの間にか図書館に関する研究・学問になっていくわけです。この場合は刊行から所蔵・提供までにかかるスピード(期間)とそれを左右する要因という、図書館サービスの品質に関するトピックになってきました(品質といっても、早ければ早いほどいいわけではなく、提供に期間がかかるところは慎重に選んでいるという結論になることも大いに考えられます)。似たようなことを様々なトピックについておこなっているのが本書『図書館を学問する――なぜ図書館の本棚はいっぱいにならないのか』でして、本稿を読んで興味をもった方は、ぜひご一読いただければ幸いです。
 もちろんこんな書名の本ですから、図書館で借りてもらうのもいいのではないでしょうか。お近くの図書館に所蔵があるかどうかも、カーリルで簡単に調べられますよ!
 
『図書館を学問する――なぜ図書館の本棚はいっぱいにならないのか』試し読み