人の手から手へ渡すためのクリニーングと補修――『古本屋になろう!』を書いて

澄田喜広

 本書で紹介できなかったクリーニング・補修方法ついて書きます。

 本のクリーニングをするには、本の構造をよく知っている必要があります。
 まず、本には本体と付属品があります。カバーや帯、函(はこ)などは付属品です。付属品については、状態以前の条件として、ある/なしが問題です。しかし、ないものについてはもともとあったのかどうかわかりません。もちろん、すべての本について知っているにはこしたことはありませんが、それは無理なので一般的な知識で補います。具体的な知識については本書をお読みください。
 次に、本の各部分の名称を覚えましょう。そうすれば、その部分ごとに本を見ることができるので、汚れを見つけやすくなります。

カバー
天、小口、地
表紙、裏表紙、背表紙
のど、みみ
チリ
はなぎれ
見返し
遊び紙

 カバーをクリーニングするときは、本体からはずしてしまうよりも本体にかけたままのほうがやりやすいことが多いのですが、カバーの裏側が汚れていたりすることもあるので、必ず一度ははずして見ましょう。その際、本体の背表紙や裏表紙不具合がないか見ます。
 本体の鉛筆による書込は消しゴムで消しますが、消しゴムは本の内側から外側へ一方向にだけ動かします。前後に動かすと紙にしわが寄ることがあります。また、紙の目はページに対して縦に通っています。その目に逆らって消しゴムをかけると、紙が毛羽立つので慎重にやってください。なお、消しゴムのカスはブラシで払ってください。のどに入った場合は書道の毛筆で取ってください。
 ページの端が折れてしまっていることがあります。爪で直そうとすると紙にしわが寄ります。油絵用のヘラなどで慎重に起こしてください。
 本体と表紙をつなぐ部分が緩んで取れそうになっているときには、フィルムプラストで補修するより、パラフィン紙をかけて現状維持するほうがいいでしょう。
 スピン(しおりの紐)がある場合には下に垂らさず、折り曲げて端をページのなかに収めます。棚に並べたとき、紐がはみ出していると非常に見苦しくなります。
 とくに注意すべきところは、カバーの背表紙部分とチリ部分です。
 まず、天を見てほこりがある場合はブラシで取り除きます。次に本を開いて本文を見ます。書き込みがひどかったり、破れてページが失われているものは、商品にならないので、この時点で処分します。
 本文が大丈夫なら、本格的にクリーニングに入ります。まず、カバーのチリ部分を見ます。たいてい縁取りしたように汚れていますので、固く絞った雑巾で拭き取ります。次に、背表紙と表紙をきれいにしましょう。とくに背表紙は、本棚に並べたときに最初に目に付く部分です。一点のくもりもないように磨きましょう。
 水だけでとれない場合は、洗剤を染み込ませた布で拭きます。ただし、ビニールコートされているカバーだけです。洗剤は台所用、ガラス拭き用などが適しています。溶剤を用いることもあります。ベンジンやエーゼット社の雷神を当店では使っています。
 油性マジックの記名などは、消しゴムで取ります。
 万年筆や蛍光ペンのインクは塩素系の漂白剤で消えますが、消し跡が残ります。漂白剤はしばらくしてから効くので、つけすぎに注意。
 ビニールコートされていない場合には、きれいな消しゴムでこすると汚れが取れることがあります。汚い消しゴムを使うと、かえって汚れがついてしまいます。
 見返しに蔵印などがある場合は、砂消しゴムでこするか、またはセロテープを何度も貼ってはがすと、紙の表面が削れて消えます。
 カバー、帯、本文のヤブレはペーパーエイドで直します。セロテープは決して使わないでください。あとで大変なことになります。
 いずれ傷みそうな部分はパラフィン紙で補強します。

 最後に古本屋の補修は、本を作り直すことや、出版時の状態を復元することではなく、「現状を維持すること」であるべきです。とくにコレクション対象の本では、新たに作ったり、復元したりすることは嘘につながります。人の手から手へ渡ってきた現在の状態を肯定して、そのまま次の所有者の手へと渡していくのがいいでしょう。